地域公共交通計画を策定するためには何をすれば良いですか?

担当:土井勉(一般社団法人グローカル交流推進機構)
福本雅之(合同会社おでかけカンパニー)

行政・事業者・市民
行政・事業者・市民

地域公共交通計画を策定することになったけど、何から手を付けて良いものやら・・・

地域の公共交通のあるべき姿と現状のギャップを把握し、どうやってそのギャップを埋めていくのかを考えることからはじめましょう。

地域公共交通計画の必要性

 地域の要望、議員さんからの意見、首長さんの公約、交通事業者からの要望など地域公共交通は多くの要望が寄せられます。これらに対して施策を個別に逐次投入すると二重投資が生まれる一方で、地域公共交通のサービスが空白な地域は放置されたままになるかも知れません。

 そこで、市町村(複数市町村や県の場合もある)が中心になって、地域公共交通の現状分析と問題点の抽出、計画の理念、目指すべき姿と課題を解決するための施策群の整理、取り組みの優先順位や実施主体を示し、スケジュール、評価などを明文化したマスタープランである地域公共交通計画を策定することが必要になります。

 地域公共交通計画の前身である地域公共交通網形成計画の策定は任意で、全国で524件(2019年7月)の作成がありましたが、地域公共交通計画の作成は国によって努力義務とされており、全自治体で作成することが期待されています(国交省の目標は2024年で1,200件作成)。

 計画を作成することで、国土交通省が用意している多様な事業メニューの活用も可能となります。

地域公共交通計画の構成

 地域公共交通計画を策定するためには、活性化再生法第5条第2項に定められた記載事項を満たさなければなりません(法定記載事項)。

  1. 地域旅客運送サービスの持続可能な提供の確保に資する地域公共交通の活性化及び再生の推進に関する基本的な方針
  2. 地域公共交通計画の区域
  3. 地域公共交通計画の目標
  4. 前号の目標を達成するために行う事業及びその実施主体に関する事項
  5. 地域公共交通計画の達成状況の評価に関する事項
  6. 計画期間
  7. 前各号に掲げるもののほか、地域公共交通計画の実施に関し当該地方公共団体が必要と認める事項

 これらの他に同条第3項で、資金の確保に関する事項や、立地適正化計画との連携、観光振興との連携などについても記載することに努めることが定められていますが、第5条第2項に定められた1~6号の事項を最低限記載すれば、地域公共交通計画の要件を満たすことになります。では、具体的にどのように考えれば良いのでしょうか。

計画策定の流れ

 計画を策定するための作業は、法定記載事項に沿って考えると、大まかに以下の5つのステップに分けられます。

  1. 地域のあるべき姿の中で地域公共交通が担うべき役割についての基本的な方針(第1号)を決める
  2. あるべき姿を実現するために達成すべき目標(第3号)を立てる
  3. 目標を達成するために行う事業(第4号)を決める
  4. 目標が達成されたかどうかを評価(第5号)する方法を決める
  5. 計画の区域(第2号)と計画期間(第6号)を決める

基本的な方針を決める

 基本的な方針は、地域のあるべき姿・なりたい姿を描き、その中で地域公共交通がどのような役割を担うべきかについての、いわばスローガンです。よって、総合計画などの上位計画で示されている将来的なまちづくりの方針を踏まえ、その中で地域公共交通に何が求められるのかを考えることが大切です。

達成すべき目標を設定する

 基本的な方針を実現するために、達成すべき目標を具体的に定めます。大学受験で言えば「○○大学の入試を突破する」というのが基本的な方針。そのために、「英語の成績を上げる」「数学の成績を上げる」、というのが目標ということになります。

 では、具体的にどのように目標を設定すべきでしょうか? まずは、現状を把握することから始めます。

a.現状の把握

 現状を把握して、なりたい姿とどのくらいのギャップがあるのかを認識する必要があります。このときに把握すべき事項としては

  • 現在の地域公共交通の状況(鉄道・バス・タクシー等の運行状況、路線網、運行本数など)
  • 地域内で行われている公共交通以外の移動支援サービスの状況(福祉有償運送の実施状況、スクールバス・福祉バス等の運行状況、福祉タクシーチケットの配布、ボランティアによる外出支援の状況など)
  • 地域内の施設の立地状況、人口の分布状況
  • 地域住民や利用者の移動に対するニーズ

などが代表的なものとして挙げられます。これらを用いて、人口分布や移動ニーズと、地域公共交通サービスの関係を整理することが第一歩です。

b.ニーズ把握の方法

 ニーズ調査とは、対象地域の人々がどんな目的で活動をしているのか、更にどんな活動を行いたいと考えているのかを把握することです。

 計画を策定するためのニーズ調査というと、まっさきに「アンケート調査」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、アンケート調査は必要な場合のみに実施するべきものです。

 ニーズ調査で何よりも必要なことは、現地調査を行うこと、すなわち、現地に足を運び、自分の目や耳で状況を知ることです。これによって、人の動く時間帯や方向、電車やバスを利用している人の年齢層など様々なことが観察できます。この観察を通じて、現在の地域公共交通サービスの改善すべき点が何かという仮説を立ててみましょう。

 この仮説はあくまでも担当者の限られた観測回数によるものですし、主観的な判断も入っています。そこで、仮説が正しいかを検証するための調査が必要となります。この時にようやくアンケートを行うべきかどうかを検討します。

 仮説検証のための調査にはアンケート以外の方法もあります。地域公共交通の計画策定の際によく使われるものとしてグループインタビュー調査があります。アンケート調査が薄く広く調査をするものなのに対して、グループインタビュー調査は狭く深く調査をするものです。調査結果についても、アンケート調査は定量的な集計結果を出しやすいですが、グループインタビュー調査では定性的な記述が中心となります。

 地域公共交通の場合、住民に占める公共交通利用者の割合は決して多いものではありませんから、住民全体を対象としたアンケート調査を実施するよりも、公共交通利用者を集めて話しを聞くグループインタビュー調査を実施して、ニーズを深掘りしていく方が適していることが多いと思われます。

c.解決すべき課題から目標を導く

 調査を通じて地域の現状が把握できたら、これをあるべき姿に照らし合わせて評価してみましょう。そうすると、住民や利用者のニーズが高いにもかかわらず、現在のサービスでは充足されていないものが解決すべき課題として見えてくるでしょう。この課題を解決することが計画の目標となります。

 といっても、細かな目標をいくつも立てるのは好ましくありません。後に触れますが、目標が達成できたかどうかは評価しなければなりませんから、目標が多いと評価が大変です。課題は共通する事柄でグルーピングして、目標の数は3つから多くても5つ程度としておくことが望ましいでしょう。

目標を達成するための事業を決める

 それぞれの目標を達成するための事業を考えていきましょう。ここには「こういうことをやれたら良いな」という夢物語を書くのではなく、計画期間中に確実に行う、あるいは行うべき事業を漏らさずに書くことが大切です。この事業は、新たに取り組みを始めるものだけでなく、以前から継続しているコミュニティバスの運行なども忘れずに記載しておきましょう。

 新たな事業の場合は、実施の時期や内容がしっかり固まっていない場合もあるかも知れませんが、そうした場合には大まかな方向性だけでも書いておくと良いでしょう。一方で、すでに実施する内容がはっきりしているものについては、できるだけ具体的な内容を記載しておくことが求められます。

 また、スケジュール表を作成し、いつの時期に何の事業を行うかも明文化しましょう。事業の実施には予算措置を伴うことが多いので、スケジュール表がないと予算要求を忘れるなどの問題が生じる恐れもあります。なお、新たな改正活性化再生法では、事業に必要な費用の調達方法についても記載することが望ましいとされています。

 事業を記載する際に忘れてはならないのが「実施主体」です。事業の実施主体がほとんど「市」となっている計画が少なからず見られます。つまり、ほとんどの事業を自治体が実施するということですが、地域公共交通活性化の取り組みは自治体だけが頑張っても実現できるものではありません。交通事業者をはじめ、公共交通活性化の取り組みの便益を受ける主体が事業実施主体に名を連ねるべきですし、事務局(=多くの場合、自治体の担当部局)は様々な主体を巻き込むような事業の進め方をするべきです。

目標達成の状況を評価する方法を決める

 計画に記載された様々な事業を実施した結果、目標を達成できたかどうかを評価し、改善に結びつける必要があります。「2)達成すべき目標を設定する」の項目で大学受験の例を挙げましたが、ただ漠然と「成績を上げる」というだけでは、入試を突破できるだけの学力が付いたかどうかわかりません。具体的に、テストの点を10点上げるとか、クラスで5番以内に入るなどの目標値を設定する方が努力のしがいがあるでしょう。地域公共交通計画の目標も同様で、目標はなるべく定量的な数値で達成度合いを表現できるものとしておくことが望ましいです。

 評価は評価することが目的ではなく、改善に結びつけることが目的です。あまりに凝った評価指標を採用したり、評価指標を多数設定したりすると、評価をすることだけで疲弊してしまい、肝心の改善が疎かになってしまいます。評価指標は自分たちで入手や取り扱いをしやすい数値を用いるようにしておくことをお勧めします。

計画の区域と計画期間について

 以上の項目に、計画の区域(第2項)と計画期間(第6項)を定めれば法定記載事項を満たします。

 計画の区域は、通常、市町村の範囲内であることが多いでしょう。

 計画の期間については、3年以内程度の短期間では事業の継続性が担保できませんし、逆にあまりに長いと、社会情勢の変化に計画の内容がついて行けなくなる可能性があります。このため5年程度とすることが一般的ですが、それ以上の計画期間を設定する場合には、3~5年程度で中間見直しの機会を設けることが望ましいでしょう。

計画策定の際に気をつけるポイント

課題・目標・評価の対応を意識

 計画の項目のうち、「課題」「目標」「評価」は対応関係を持つことを意識しておくべきです。今ある「課題」が解決された状態が「目標」であり、それが実現されたかどうかを検証するために「評価」を行うのですから、この3者は対応関係を持つのが自然です。例えば、課題が「高齢者の外出が困難」だとしたら、目標は「高齢者が外出しやすい環境の実現」などになり、評価の指標は「高齢者の外出率向上」といったものになるはずです。

 一方で、「目標」に対して個別の「事業」をぶら下げることが行われがちですが、複数の目標にまたがる事業が存在するなど、必ずしも1対1で対応させられるとは限りません。むしろ、どの事業がどの目標に関係しているのかを表にまとめる方がわかりやすいでしょう(図1)。

図1 目標と事業の関係の整理例(多治見市公共交通網形成計画)

計画書のボリューム

 計画書には、過不足なく必要な事柄が載っていることが重要です。市の概要や統計データの集計結果、住民アンケートの結果などが冒頭から数十ページにわたって長々と書かれている計画書が多く見られますが、こうした計画書だと住民はおろか、引き継ぎを受ける将来の後任者であっても読む気にならないでしょう。

 おおよその目安として、計画書の本編は20~30ページ程度に納めておくことが望ましいと考えられます。計画書をこのページ数に収めようとすると、掲載する項目は業務実施の上で重要な事項に限られるはずです。業務実施上の重要な事項とは、評価指標の設定根拠や、施策策定の根拠とした事柄になります。

 もっとも、調査で得たアンケート結果や統計データの集計結果は重要なバックデータですから、巻末あるいは別冊の資料編としてまとめておくことが必要です。

さまざまな移動手段の活用

 地域内には鉄道や路線バスと言った通常の公共交通手段だけでなく、さまざまな移動手段が運行されています。福祉施設や病院・自動車学校・商業施設への送迎バスやスクールバス、さらにはボランティア輸送なども行われているかも知れません。こうした「地域における輸送資源の総動員による移動手段の確保」も重要な視点です。特にボランティア輸送などをやっている人たちの意欲やお困りごとを知ることは、この仕事をする醍醐味でもあります。

計画はバトンタッチされます

 この計画は作成することが目的ではなく、これを使って様々な施策を実施することが目的となります。ということは、この計画は人事異動があった際に担当者の「引継書」にもなり得るものです。良い引継書であるためには、具体的でわかりやすい内容であることが何よりも大切です。こうした意識で計画作成と毎年の施策実施と計画の見直しをすると良いでしょう。

 なお、地域公共交通網形成計画が提示された際には、国土交通省から「作成のための手引き」【参考文献1】がWEB上で公開されています。これは計画作成に取り組む際に大変役立つ資料です。今回の法改正に伴い「地域公共交通計画」についても「作成のための手引き」が作成されるとのことです。こうした資料については目を通しておくと良いと思います。

 また、具体的な「地域公共交通網形成計画」ですが、様々な自治体で既に作成されています。多くの計画については、WEBでも公開【参考文献2】されています。これらも参考にされると良いと思います。

参考文献

国土交通省:「地域公共交通網形成計画及び地域公共交通再編実施計画作成のための手引き」(第4版、2018年12月)

公共交通政策:地域公共交通計画等の作成と運用の手引きについて  - 国土交通省
国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。

例えば、三田市:「三田市地域公共交通網形成計画」(2019年3月)

三田市/三田市地域公共交通網形成計画
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