計画策定のためのコンサルタントの選定はどうすれば良いですか?

担当:福本雅之(合同会社おでかけカンパニー 代表社員)
井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構 客員准教授)

行政
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計画策定のためのコンサルタントの選定はどうすれば良いですか?

天の声
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専門的なノウハウや豊富な経験も必要ですが、一緒に地域の課題に向き合えるパートナーを探しましょう。

そもそもコンサルタントに頼まなければいけないの?

 交通に限らず自治体において各種計画策定を行う際には、コンサルタントに委託することはよくあると思います。計画策定のためには、各種調査しデータを集め、それらを分析して課題を抽出し・・・のように通常の業務を行いながら実施するには、膨大な作業が新たに発生します。そのような時に、専門的な技術・知識を持つコンサルタントの力を借りることは有益です。
 しかし、計画策定に関する内容を全て「丸投げ」するべきではありません。あなたも知らず知らずのうちに「丸投げ」していませんか?

丸投げの例① 参考見積依頼

 まず、計画策定の前の年、策定業務委託の予算を確保するために参考見積をコンサルタントに依頼して作成してもらうことが多いでしょう。この際、付き合いのあるコンサルタントに「計画策定の予算取りに必要だから、適当な仕様書と見積書を用意して欲しい」という依頼をしているということはありませんか?
 本来、どういう経緯で計画を策定するのかは自治体の担当者しかわからないはずです。それゆえに仕様書の内容も自治体の担当者でなければ考えようがないはずであるにもかかわらず、こうしたことが起こるのはもったいないことです。細かな点はともかく、大まかな業務内容を示すことは、自治体の担当者が地域に必要なことは何かを考えて、行うべきです。

丸投げの例② 計画策定のための調査

 計画の策定を行う場合には、そのためのデータ分析や調査を行うことが多いでしょう。既存の統計資料やバスの利用者数のデータ集計、分析、アンケートやグループインタビューといった調査には専門的な知識が必要なことも多く、コンサルタントの手助けが有益です。
 しかし、調査業務を発注した後、調査結果が報告書としてまとまってくるまでコンサルタントに任せっぱなしにしていませんか? 公共交通の担当者をしていると、例えば、バスの利用者にどのような年齢層の人が多いであるとか、どこの停留所の利用が多いといった状況について、なんとなく感覚的にわかっている場合が多いでしょう。しかし、何らかの施策を行う際の根拠として「担当者としてこういう感覚を持っている」というだけでは説得力に欠けますし、もしかしたら間違った思い込みをしているかもしれません。
 そこで、「感覚的にこういうことを思っている」という「仮説」が正しいかどうかを検証するために行うのが、分析や調査の基本です。そして、この「仮説」は、日々の業務を行う中で自治体の担当者が感じているものなので、外部のコンサルタントではわからないことです。データ分析や調査の委託を行う場合には、自治体の担当者が検証したいと思う「仮説」をコンサルタントに伝え、共に考えることが必要です。

丸投げの例③ 計画の素案作成

 地域公共交通計画では以下の事項が盛り込まれることが法制度の要件となっています。

  1. 地域旅客運送サービスの持続可能な提供の確保に資する地域公共交通の活性化及び再生の推進に関する基本的な方針
  2. 地域公共交通計画の区域
  3. 地域公共交通計画の目標
  4. 前号の目標を達成するために行う事業及びその実施主体に関する事項
  5. 地域公共交通計画の達成状況の評価に関する事項
  6. 計画期間

 2.区域、6.期間についてはともかく、その他の4項目全てをコンサルタント任せにしていいのでしょうか?

 コンサルタントの経験が生かされるのは、他地域での事例を知っていることや、定量的な評価手法のノウハウがあるという部分です。ですから、4.事業に関して、他の地域で行われている有効な取り組みを紹介してもらうことや、5.評価に関して、どのような分析を行えば良いのかといったことについて、助言をもらうことは有益でしょう(逆に言うと、他地域の情報を知らなかったり、評価手法を提案できないコンサルタントは落第ということです)。
 一方で、1.基本方針、3.目標といった項目は、地域の様々な施策の中で、公共交通がどのように位置づけられるのか、あるいは、地域にとって公共交通の「あるべき姿」がどのようなものか、ということを考えて設定されるものです。したがって、外部のコンサルタントではなく、自治体の担当者が自ら定めた方が望ましいものになるでしょう。 
 計画策定において、全ての業務をコンサルタントに頼まなければいけないわけではありません。コンサルタントの経験が有効にいかされる事項が何かを考えて、適切に枠割分担をしましょう。

丸投げの例④ 会議運営

 計画策定のために開かれる法定協議会などの会議運営補助が委託内容に含まれる場合があります。もちろん、計画の内容を議論するための会議ですから、そのためのデータ分析や、それらをとりまとめた資料の作成、会議録の作成などといった作業はコンサルタントの手を借りることは有益でしょう。
 ところが会議の場において、資料説明を全てコンサルタントが行うような例がありませんか? 自治体の担当者は「では、資料についてはコンサルから説明します」と一言だけ言って座って聞いているだけ。こうした会議に出ると、本当にこの自治体の担当者は、計画の中身のことを理解しているのだろうか、と不安になります。
 計画策定の主体はあくまでも協議会であり、その担当者は自らの言葉で計画の中身を語るべきです。会議運営も任せきりにせず担当者が主体的に役割を果たすことで、会議も充実したものになります。

コンサルタント選定する際に重視すべきこと

 自治体の担当者より、コンサルタントの方が業務を通じて他地域での事例や評価方法を数多く知っているということは事実ですが、業務実績の多いコンサルタントが良いコンサルタントとは限りません。それは、他地域での事例や評価方法が自分の地域に適したものとは限らないからです。
 どんなにデマンド交通で成功した事例を知っていても、複数のバス事業者のダイヤ改編が出来るかどうかはわかりません。また、ビッグデータを活用した需要予測ができても、高齢者の移動ニーズを事細かに評価することができるかどうかもわかりません。コンサルタントにも得意分野と不得意分野があります。相談しやすいからといって別の業務で付き合いがあるコンサルタントに何でもかんでも頼むのも考えものです。
 地域が抱える課題や普段感じている「仮説」を伝え、それにしっかりと応えられるコンサルタントを選ばなければ、コンサルタントが持っているノウハウと経験が活かせず、ミスマッチになってしまいます。これは自治体・コンサルタント双方にとって不幸なことです。
 こうしたことをそのままにした結果、立派なコピペ計画ができあがってしまうかもしれません。他の地域で成功した事業を同じようにコピペした計画は、それが本当に達成されれば理想の地域公共交通が達成できる立派な計画のように見えます。しかし、それが地域の課題をしっかり踏まえていないと、その立派な計画も文字通りの絵に描いた餅でしかありません。
 それでは、実際の入札時にはどういったことに気を付けるべきでしょうか。ここまで述べたように、地域のことを良く把握してそれに適した提案を重視することになります。単純な価格競争入札ではなく、プロポーザルとして優秀な企画提案を選定すべきであり、評価基準として価格の配点は適切な範囲に抑えるべきです。さらに、どんなに企画内容が素晴らしいものでも実現しなければ意味がありません。あまりに夢物語を述べているようなものには注意しましょう。
 こういった入札時の要件に加えて、コンサルタントを選定する時に重視するべきことは、豊富な経験に加えて、一緒に地域の課題に向き合ってくれるかという点です。基本方針や目標は自ら定めた方が良いと書きましたが、決して一人でやるという意味ではありません。経験豊富なコンサルタントが、取得されたデータから課題が何なのかを考え、それに対して最適な改善方法を担当者とコンサルタントが一緒になって導き出すことができるパートナーとなれば、こんなに心強いことはありません。

 計画策定後の付き合い方

 計画策定時には、国の補助を含めてコンサルタントへの委託費を確保することができます。しかし、計画が完成してむしろ本当はこれからなのに、金の切れ目が縁の切れ目となり、せっかくのパートナーとのお付き合いが終わってしまうことはよくあると思います。
 計画の進捗を見守る立場として、情報交換を続けていく関係性を構築することをお勧めします。もちろん自治体側には財政的な事情があり、コンサルタント側もボランティアで付き合っていくことも難しいかと思います。例えば法定協議会等にオブザーバー等で出席いただき、会議中に出された課題を整理するというような、規模の小さい委託を交えながら、進捗を確認できる体制が取れるとよいと考えられます。

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