公共交通の利用実態はどのように調査すれば良いですか?

担当:塩士 圭介(日本海コンサルタント)

交通事業者<br>データ分析担当
交通事業者
データ分析担当

バスの利用実態を把握したいけれど、どのような調査をしたらいいのかなぁ・・・?

路線の利用特性を的確に把握し、サービス改善を継続するには、予算や知りたいことに合わせた調査が必要です。調査頻度、調査方法、予算、活用方法を上手く組み合わせて下さい。 最近では、自動でデータを取得する方法もありますよ。

はじめに

 「公共交通の利用を増やしたい・・・」「赤字路線をなんとか改善したい・・・」「輸送の効率化をしたい・・・」「ニーズにあったダイヤに見直しをしたい・・・」など、公共交通の改善のための施策を立案し、それを実行するにあたっては、公共交通の利用実態を正しく把握することが必要です。その利用実態は、どのように把握すれば良いのでしょうか?多額のお金をかけて調査しなければならないのでしょうか?

 「利用実態を把握する」といっても、その把握の仕方は様々な方法があります。把握したい内容や予算、調査期間によって、適切な方法を取捨選択する必要がありますので、下記の記事をお読みになり、是非皆さんの業務に役立ててください。

調査方法による分類

 コミュニティバスやオンデマンド交通を評価したり、運行の改善を検討したりする際には、利用者が多く乗り降りしている停留所や利用の多い便がどれかを把握するといった、利用実態を知ることが重要です。

 こうした利用実績を調査するには、様々な方法があります。調査方法には、大きく分けて「過去の運行実績など」から調査をする方法、「人力」による調査、「機器」による調査(自動計測)などがあります。ここでは、実際に調査を行う「人力」による調査、「機器」による調査、について説明をします。それぞれ簡便さやコストなどが大きく異なりますので、取得したいデータに合わせて適切な手法を選ぶ必要があります。

人力による調査

 人力による調査は、運転士の目視調査、調査員の目視または調査票の配布による調査があります。

 運転士の目視調査は、運転士が紙の調査票またはカウンタにより、便ごとの乗降者数をカウントするものです。調査費用は基本的にかかりませんし、運転士の協力が得られれば毎日計測することも可能です。ただし、運転士の安全運転に支障がない範囲での調査に限られますので、あまり複雑な調査項目を設定するのには向いていません。

 調査員が車内に乗り込んで調査する方法では、車両ごとに1名ないし2名の調査員が乗車し、調査票の配布または自ら目視で調査票に記入する方法となります。調査員をアルバイト等で雇用する場合は費用がかかりますので、毎日計測することは基本的に困難で、年1日ないし数回の調査が実務的には限界と考えられます。ただし、運転士とは別の人が調査するため、複雑な調査項目を設定することが可能です。

乗車(または降車)人員調査

 単純に1便ごとの乗車数(または降車数のどちらか)を記録する方式で、毎日の乗車数を記録する最も簡便な調査です。

  • 調査方法:運転士が調査票に、1運行ごとカウンタ(手持ち数取り器:100均でも売っています)または正の字で、運転席横のドア(前扉)を通過した人員を記録します。他の人力による調査に比べて最も簡単な調査で、運転士の負担も小さく継続しやすいです。
図 運転士が記入する調査票の例(正の字を記入)
  • 調査頻度:運転士が調査する場合は、毎日の調査も可能です。または、定期的(四半期ごと、半年ごと)に1週間~数週間程度、継続的に実施することで、年別、月別などの変化を追うことも可能です。
  • 集計方法:日別・路線別(便別)の乗車数を集計することで、便別・路線別の乗車数の推移が把握可能です。
  • 留意点:1便当たりの乗車数が1人で数えられる程度の場合や、小型車(1扉車)の場合に有効です。なお、バス停別の乗車・降車を記録しない場合は、バス停別の乗降者数及び平均通過人員が取得できません。後述する「バス停別乗降調査」の実施が必要です。

乗降人員調査(バス停別)

 バス停留所ごとの乗車人数と降車人数の両方を、目視で記録する方式です。

  • 調査方法:運転士または添乗調査員による目視(手持ちカウンタまたは正の字で記録)により、バス停別の乗車人員及び降車人員の両方を記入します。添乗調査員が調査する際は、2扉車の場合、必ず2扉とも見通せる位置の座席に座る(または立って調査)必要があります。
  • 調査頻度:運転士が調査する場合は毎日の調査も可能ですが、乗車・降車の両方を計測するため、小型車両等運転士が目視で実施できる程度の旅客数に限られます。調査員による調査であれば、予算にもよりますが、定期的(四半期ごと、半年ごと、1年ごと)に1週間~数週間程度(予算による)実施することが望ましいです。
  • 集計方法:バス停区間の乗降データ(便別・ダイヤ別)が得られるほか、停留所ごとの乗車人数と降車人数を差し引きすることにより、停留所間の通過人員(車内に何人が乗車しているか)、乗車定員に対する乗車率をバス停ごとに算出することも可能です。
    バス停別の通過人員は、便あたり乗車数よりもさらに詳細に「どの区間が乗っているのか」を分析することができます。
図 バス停間通過人員の集計例
出典:唐津地域地域公共交通網形成計画
  • 留意点:記録、集計の手間が増えるため、毎日計測するのは困難です。1便当たりの乗降者数が多い場合、または2扉車の場合は、調査員の配置が必要。小型車の場合でも、運転士が調査する場合は負担が増加することに留意して下さい。

OD調査

※OD調査とは・・・Oは起点(origin)、Dは終点(destination)を表し、一人一人が「どこから」「どこへ」動いているのかをみる調査です。

 調査員1~2名がバスに乗車し、乗車時に停留所番号等が書かれた調査カード(ビンゴカード式が多い)を配布し、下車時に回収する方式です。費用と労力がかかるため、頻繁には実施できませんが、乗降停留所ペア(どこからどこへ乗ったか)に加えて券種、乗り継ぎ有無なども把握可能で、実態把握方法としては最も多くの情報を得ることができます。

  • 調査方法:添乗調査員1~2人により、乗車口で乗車位置の分かるカードを配布、降車口で回収します。または、乗車人員が少ないと見込まれる場合は、調査員が乗客に対してアンケート用紙を車内で配布・回収する方式(自記式)、または、調査カードもアンケートも配布せずに、目視のみで乗降停留所ペアを記入する方式もあります。
  • 調査頻度:調査員配置などに費用がかかるため頻繁な実施は難しいですが、少なくとも1年に1回ないし複数回は実施されることが望ましいです。
  • 集計方法:ODペア、通過人員のほか、支払券種、性別、年齢層など、幅広い項目が取得可能です。 人の流れを詳細につかむことができるため、路線見直し、経路変更の検討に活用可能です。(例:短距離移動が多く、長距離の通し利用が少なければ、効率化のために系統の短縮なども可能、など)
  • 留意点:便ごとの利用動態や平均乗車密度を正確に把握するには、可能な限り調査日の「全便」にわたって調査することが望ましいです。調査員の都合で1日での全数把握が難しい場合、複数日にわたって全便を調査するなどの工夫も考えられます。
図 OD調査の実施方法の例(調査員2名が乗車し、カードを配布・回収する場合)
図 カード配布式のOD調査カード(ビンゴカード式)
図 OD表の例(行方向(縦)が乗車停留所番号、列方向(横)が降車停留所)
上記の例では、3番⇒7番、7番⇒2番の利用が多いことが分かる。

機器による調査の方法

 機器による調査は、人力(運転士または調査員)による調査とは違い、バス車内または営業所に搭載された機器によって自動的に取得、整理されるものです。自動的に蓄積されていくデータの代表的なものとしては、運賃箱の運賃収入額や、バスカード・ICカードの利用ログといったものがあります。運賃収入額では、日々の利用者数の変動状況を把握することができます。カードの利用ログデータは、そのまま扱うことが困難であり、多くの場合は集計・分析することによって、バス停別乗降車数やOD表の作成に活用することが可能です。

運賃箱データ

 運賃収入、定期券の発売実績、回数券の着券精算等の収入から推計、または整理券の枚数カウントによるものです。バーコード付き整理券搭載車の場合は、乗車バス停、降車バス停の両方を記録する機能を持った運賃箱もあり、その場合はODペア(乗車・降車バス停のペア)を把握することも可能です。

  • 記録・集計方法:毎日の運賃箱精算業務の中で、現金、回数券・整理券枚数などをカウントする方法です。調査が不要であり、毎日の精算業務の中で記録することで日変動や月変動、経年変化などが把握することができます。路線・系統別に使用車両(運賃箱)が固定されている場合は当該路線・系統別に収入額の把握が可能です。
  • 留意点:便別、停留所別の乗車数は(バーコード付き整理券搭載車の場合を除いて)不明となります。同じ車両が複数の系統を走る(混成仕業)場合には、路線・系統の内訳を把握することは不可能です。別途、1人あたり平均運賃を別途把握しておく必要があり、本方式による乗車数は、収入ベースの推定値となります。

自動カウンタからの調査

 系統別の乗降数を出入り口に設置したカウンタ(赤外線、カメラ等)で自動把握するものです。例えば、バス車内にビデオカメラを設置して撮影し、映像からカウントする機器、乗降口に乗降カウンタを設置し通過人数を自動計測する機器などがあげられます。

  • 記録・集計方法:乗降カウンタメーカーによって大きく違う可能性がありますが、一般的にバス停の乗降者数(またはそのどちらか)を系統別・便別に計測することが可能です。初期投資が必要ですが、設置後は調査員の配置をしなくても計測・データの蓄積が可能です。
  • 留意点:計測誤差が生じる場合があるため、おおよそ正しい数値となっているか検証が必要です。

ICカードログからの集計

 ICカードの記録を集計することで得られるデータからODなど様々な分析をするもの。いわゆる「ビッグデータ」集計となるため何らかの集計システムの構築が必要ですが、ICカードシステム搭載車であれば、一般的には自動で利用実績は取得可能となっていると考えられます。

  • 記録・集計方法:ICカードのログデータを使えば、乗車停留所、降車停留所を集計、時間帯別、券種別などでのOD表も作成可能です。毎日データが取得できるためサンプル数が多く、年に1度のOD調査よりも精度的に安定していると考えられます。また、ICカード利用率が分かっていれば、精度高く全利用者に拡大することができ、乗降客数、OD及び経年変化など多様な集計が可能となります。
  • 留意点:全利用者のうちICカード利用率を捕捉するために、別途券種内訳を調べることが必要です。
ICカードのデータを使った分析例
出典:岐阜市の地域公共交通の取り組み(岐阜市作成資料、平成28年)

おわりに(調査結果の整理について)

 いかがでしたでしょうか。公共交通の利用実態を調べる手法としては、いくつか手法があることをお示ししましたが、これら調査結果をどのように整理するか、については、別記事において記載しておりますので、あわせてご覧下さい。

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