自動運転で公共交通は改善されますか?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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自動運転で公共交通は改善されますか?

天の声
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自動運転にもいろいろな技術レベルがあり、今の公共交通を代替できるようになるにはもう少し時間がかかります。

自動運転の技術レベル

 自動運転は、制御する機器の種類や、道路の制約条件などに応じてレベル分けがされています。

表1 自動運転の技術レベル
(SAE International J3016およびJASOTP 18004)

               定義 運転の主体
レベル0運転手が全ての動的運転タスクを実施運転手
レベル1システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行運転手
レベル2システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行運転手
レベル3システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行作動継続が困難な場合は、運転手がシステムの介入要求等に適切に応答システム(作動継続が困難な場合は運転手)
レベル4システムが全ての的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行システム
レベル5システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行システム

 レベル2までは、これまでの車と同じように運転手が主体的に運転をしながら縦方向(アクセル・ブレーキ)や横方向(ハンドル)の制御をシステムが行います。これらの技術は、すでに市販車の一部でも導入が始まっており、実用化された技術といえるでしょう。
 これに対してレベル3以上が、システムが運転手となるものであり、皆さんがイメージする自動運転に近いものになります。細かく分解すると、運転席がなく今と同じように自由に道路を走行できるものがレベル5、運転席はないけれど走行できる道路が限定されるものがレベル4、システムが運転できない時に運転席の運転手が交代するものがレベル3となります。
 現在、国内で行われている実証試験の多くはレベル3または4にあたります。官民ITS構想・ロードマップ2019では、レベル3は2020年、レベル4は2030年の実用化を目指しており、現状の路線バスの代替になるような、運転手が不要かつどのような道路では走行できるレベル5においては、具体的な年限は示されておりません。

実用化までの課題

 それでは、レベル3や4でどこまでできるでしょうか。レベル3のシステムが運転できない時とは、システムが機械的な問題で動作しないことだけではなく、システムが危険だと判断した時にもあてはまります。つまり、想定外の障害物(急な飛び出しや地図情報上は存在しない路上駐車など)があった場合など、日常的に起こることにも対応する必要があり、現実的には常に運転手が必要となります。これでは自動運転のメリットとして挙げられる、運転手不足の解消にはつながりません。
 また、レベル4の限定領域では、自動運転のために専用道が必要となり、現状のバス路線をそのまま使うことが困難です。しかし、過疎化が進む中山間地域などで交通量が少ないのであれば、専用道とまでいかなくても専用レーンを作ることで対応できるかもしれません。
 これに加えて、旅客事業として導入する上には車両技術だけでない課題があります。レベル4以上の自動運転の導入では運転手不足の解消に貢献すると考えられています。しかし、運行コスト面で考えると、高価な自動運転車両を導入した結果、これまでの人件費よりコストがかかることになり、運賃の値上げしなければ採算が取れなくなるというようなことも考えられます。また、運転手が同時に果たしていた車掌的な機能(アナウンスや両替など)を補うものの開発も必要となります。現在の運転手は単純に目的地に着くだけの運転でなく、乗客の状況を把握してその都度最適な運転への配慮を行っているということも考慮する必要があります。
 このように自動運転技術は急速に進歩していますが、移動手段としてだけでなく、旅客事業として考えた場合には検討すべき事項がまだ沢山あります。現状の公共交通をすぐに代替するレベルとなっておらず、直近の問題である運転手不足の解消や減便・廃止を代替する新たな公共交通手段とすることは困難です。それどころか自動運転を声高にアピールした結果、これから運転手になりたいと考えている人たちにとって、将来の展望のない職業と捉えられ、運転手不足を加速しているのではという意見もあります。

自動運転が来るまでに今できること

 しかし、そう言ってばかりでは技術の進歩はありません。皆さんの地域で上記のような「限定」的な地域を作れるのであれば、積極的に実証試験を行うことで改善点を洗い出していくことも重要です。実際に国内では内閣府や国土交通省を中心に各地で実証試験が行われています。
 この実証試験を行うにあたり、地域側に必要になるインフラとして、車道外側線やセンターラインの維持管理の徹底や道路標識の体系化などを行っておくことは、本格導入をスムーズに進めることに貢献します。
 将来的にレベル3、4といったものが実用化された段階で、いち早く本格運行を行うためには、今から実証試験の候補地として上記の省庁や技術を提供する民間企業と連携から始めることは有効だと考えられるます。

参考文献

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