【コラム】新型コロナウイルスの影響で減った利用者は元に戻る方が良いか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

 新型コロナウイルスによる利用者の減少が公共交通に大きな影響を与えています。このような大幅な利用者の減少は、交通事業者の経営に大きな打撃を与え、収益性の低下によってサービスレベルや路線ネットワークの維持が困難となることも想定されます。

 路線バスの利用者は以前に比べて2割程度減少しているというデータもあります。2割も利用者が減っていることは大問題ですが、本当に問題なのは「どのような減り方をしているか」です。

 そもそも、公共交通の需要はピークとオフピークで大きな差があり、交通事業者はピークである朝ラッシュ時の需要に合わせて車両や人員を用意しています。このため、昼間閑散時には車両や人員がどうしても余剰気味となります。

 もし、新型コロナウイルスの影響がある程度収束した後、通勤通学の利用が回復して朝ラッシュ時の混雑が復活する一方で、昼間閑散時の利用が戻らないようなことが起きるとすれば、以前よりもピークとオフピークの需要の差が拡大してしまうことになります。すると、ピーク時に求められる車両や人員は以前と変わらないにもかかわらず、オフピーク時には車両や人員がさらに余剰になってしまいます。こうなると、利用者数全体としては相当数の回復となっても、交通事業者のコスト構造が非効率なものになるので、やはり従来通りのサービスや路線ネットワークを維持することが難しくなりかねません。

 アフターコロナの社会においても、安定的に公共交通を供給し続けるためには、極端なピークをなくすことで車両や人員の必要数を抑えつつ、オフピーク時の需要を喚起して、遊休化する車両や人員をなるべく少なくするという「需要と供給の平準化」が必要です。

 そのためには、①ピーク時の利用を減らす、②ピーク時の利用者を前後時間帯にずらす、③オフピーク時の需要を喚起する、といった施策を組み合わせて行うことが必要です。

  • ①ピーク時の量を減らす:在宅勤務を継続するなどして、ピーク時間帯の利用者数そのものを減らす方策が考えられます。これは交通事業者のみの努力では不可能です。在宅勤務継続の社会的なコンセンサスが必要となります。
  • ②時間をずらす:時差通勤を推進し、ピーク時間帯への一点集中を分散します。企業の取り組みやそれを促す政策も必要ですが、交通事業者としては、ピーク・オフピーク時間帯で運賃に差を設ける「時間帯別運賃制度」の導入が考えられます。
  • ③オフピーク時の量を増やす:自由目的での利用を喚起することで、閑散時間帯の利用を増やします。オフピーク時の割引運賃や定額制運賃の導入により自家用車からの転換を促す施策や、沿線施設と連携した外出促進策の実施などが考えられます。

 こうしたシナリオによって,供給コストを抑えることができれば,公共交通の事業の継続性を確保する方策の一つとすることができると考えられます.
 その逆に「なりゆきシナリオ」のままだと,公共交通のコスト構造が変わらず,事業の継続性についても大きなピンチを迎えることになると思います.「望ましいシナリオ」に向かって何ができるのかを考えましょう.

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