自動車に比べて公共交通が優れているところはありますか?

多くの私たち
多くの私たち

自動車があればオールマイティだと思っているのですが…

それはね…
それはね…

自動車は優れた乗り物ですが、公共交通は自動車にはない長所がいくつかあります。それを考えてみましょう

自動車はオールマイティな移動手段⁉

自動車はドア・ツー・ドアで移動でき、しかも自分の好きな時間に使うことができる大変便利な移動手段です。しかも20世紀初頭のヘンリー・フォードによる自動車の大量生産システムの構築により、大富豪でなくても自動車を保有できる価格になりました。20世紀は自動車の時代と言ってもおかしくないと思います。

便利で快適な移動手段であり、多くの人々が手に入れることのできる価格になることで、世界中に自動車の保有は拡大していきました。2020年9月のわが国の自動車保有台数は8,231万台(軽自動車、2輪車、3輪車を含む、自動車検査登録情報協会)となっています。2020年7月の人口が1億2584万人ですから、1.5人に1台の割合で自動車が普及していることになります。

多くの人たちが移動手段として便利で快適な自動車を選択した結果だということができます。私たちも自動車があるから仕事や買物など生活に必要な移動だけでなく、レジャーや観光など多様な活動を支える移動手段です。

鉄道やバスなどの公共交通に比べると自動車は圧倒的に使い勝手の良い交通手段だと考えられます。しかし、公共交通が自動車に優っている点がいくつか、あります。

公共交通が自動車に比べて優れている点は?

公共交通は、利用に必要な運賃を支払うことで、基本的には誰でも利用することができる交通手段です。もちろん、バリアーフリー化などの課題は忘れてはなりませんが。

公共交通は運転免許がなくても、そして自分で運転しなくても利用ができます。お酒を飲んだ時で移動することができる点では、優れているということができます。

また、事故の際の責任の深刻さは、運転をしていなので公共交通の方が自動車に比べると少ないと考えられます。

こうした運転をしないことだけでなく、まちづくりや人々の移動を支えるという点から公共交通が優れている点が2つあります。

① 人々を「束ねて」運ぶ機能

② 人々の移動に対する潜在需要の顕在化

これについて、見ていきましょう。

人々を「束ねて」運ぶ機能

先ずは、図-1の写真をご覧ください。これは富山県高岡市で2008年7月にとやま環境財団の人たちが撮影されたものです。50人の人たちを運ぶために必要となる交通手段の比較です。これを見ると自動車の50台の車列に比べて、路面電車(バスも同様です)なら1台で人々を運ぶことがでることが一目瞭然です。道路や駐車スペースの整備など都市空間に及ぼす影響や、環境負荷を考えても公共交通の方が効率性の高いことがわかります。

人々を「束ねて」運ぶ機能は公共交通の得意とするところなのです。

自動車が集まると渋滞が発生しますが、人々が集まると賑わいが生まれます。コンパクトなまちづくりに寄与する移動手段として公共交通の役割を再認識することが期待されます。

様々な人々が乗ることで、出会いも生まれます。高校生たちが通学の電車の中でのお喋りが大きな愉しみであることも、こうした公共交通の特徴によるものです。

下の写真のように、人々の移動を「束ねる」ことが可能だということは、公共交通が無くなって皆さんが自動車を使うと、一気に渋滞が深刻になり、駐車場も満杯。その駐車場に入るための自動車で、道路はさらに混雑=渋滞するようになりそうです。

図-1 富山県高岡市エコライフ撮影会の写真より(撮影:(財)とやま環境財団,一部土井修正)

人々の移動に対する潜在需要の顕在化

 3割程度は自動車を気軽に利用できない人たち

各地の地域公共交通会議などに行くと住民委員の方から、「わたしのまちはクルマがあれば、とっても便利。大人は皆さんクルマを持っているので移動に不自由はない。でも、自分たちが高齢になり、運転できなくなった時のためにバスを残してほしい」と言われることがあります。この発言にはいくつかの落とし穴がありますが、このうちの1つについて考えてみたいと思います。

本当に地域の皆さんは全員クルマを持って自由に外出されているのでしょうか?

図-2は兵庫県加西市を対象として集計したパーソントリップ調査(2010年。少し古いですが、これが最新のデータなのです)の結果です。外出の際に利用に使う交通手段の80%が自動車です。鉄道・バス・バイク・自転車・徒歩は残りの20%の中に含まれています。極めて自動車型のまちだと言うことができると思います。

しかし、同じパーソントリップ調査の結果から「自動車を気軽に利用できない人口」を集計すると、なんと人口の29%になります。およそ3割の人たちは運転免許証を持っていない、あるいは世帯で自動車を保有していないのです。

では、こうした3割の人々はどんな手段を使って移動しているのでしょうか?多くの人々が「送迎してもらって」いるのです。

図-2 自動車を気軽に利用できない人の割合(兵庫県加西市)

なお、ここで加西市の事例を出しました。加西市は、たまたま私が関わることができたまちなので、例示をしました。全国の自動車型の地域でも3割程度は自動車を気軽に利用できない人たちがいるようです。また、加西市ではコミュニティバスのサービス改善などに取組み、近年はバスの利用者が増加していることを付言しておきます。

潜在需要の顕在化

自動車を気軽に利用できない人たちは家族、ご近所の人たちによる自動車の送迎で外出をすることが多くなります。しかし、送ってもらう人たちは「気兼ね」や「遠慮」が働いて移動そのものが減少する=潜在化する傾向にあります。既存の研究でも、通院など必要必要不可欠な移動に対する送迎は減少しないが、友人との交流・レジャーなど個人の愉しみにかかわる移動は減少することが把握されています1)

こうした状況に対して地域公共交通が導入されると潜在化した外出が顕在化することがあります。図-3は神戸市東灘区の高台にある渦森台と住吉台という住宅地において、「バスが存在することで実現する活動」に対する回答です2)

図-3 バスが存在することで実現する活動(神戸市東灘区渦森台・住吉台:免許の有無別)2)

ここから、免許を持たない人たちは「日常的な買物」や「通院」が実現したという回答と共に、「知人との交流」「外食」「スポーツ・習い事」「非日常的な買物」などが実現したとの回答が多いことがわかります。

自動車を気軽に利用できない人たちは、個人的な愉しみの外出は潜在化する傾向にあるが、公共交通を導入することで、こうした外出・移動が顕在化するようになると考えられます。

そして、送迎をしている人たちも、実は送迎そのものが結構負担になっていることも多いことが想定できます。

地域公共交通のサービスを設計する場合に、送迎からの転換、あるいは送迎に頼らない移動による潜在需要の顕在化を意図することは、需要を確保するためにも重要なことになります。

人々の移動を「束ねる」こと、「潜在需要の顕在化」ことなどは、日常的に自動車を使っている人々に対しても公共交通が役立っていることになりそうです。

こうした地域公共交通が優れた特性を活かすためにも、自動車を含めた多様な交通手段の組み合わせを考えることが重要になることを強調しておきたいと思います。

【参考文献】

1)西堀泰英・土井勉・安東直紀:「利用実態と住民意識からみた住民主体の地域公共交通が果たす役割-高齢者の活動しやすさに制約のある地域に着目して」、都市計画学会論文集52巻3号、p818-824、2017

2)土井勉・西堀泰英他:「愉しみの活動」に対して生活に身近な「都市の装置」が果たす役割、大阪大学COデザインセンター、「Co*Design5」,pp.45-64,2019年3月

多様な交通手段については:https://kotsutorisetsu.com/20201025-2/

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