ダイナミックプライシング?時間帯別運賃?何が違うの?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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最近ダイナミックプライシングとか時間帯別運賃とかよく聞くけど何が違うの?

天の声
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需要に応じて運賃を変えるという考え方ですが、まだ言葉の定義がはっきりしておらず、どのタイミングでどう変動させるかを考える必要があります。

そもそもダイナミックプライシングって何?

 ダイナミックプライシングという言葉は、航空業界やホテル業界では以前より使われています。同じ座席や部屋でも利用者の少ない平日の料金は安く、混雑する休日は高くなるというのを、皆さんも見たことがあるかと思います。公共交通の分野でも検討が進められており、2020年より始まったタクシーの変動迎車料金制度などが類似のものになります。

 また、昨今の新型コロナウィルス感染症の影響下において混雑を回避したいという考え方が定着し、JR東日本のオフピークポイントなど混雑していない時間帯に利用した場合にポイントが付与されるという取り組みが計画され、これらを各種メディアは時間帯別運賃などの用語を使って紹介しています。

 どちらの用語も明確に定義されたものがあるわけでなく、どちらが正しいということが定まっていません。逆に、どちらにも共通をしているのは、需要に応じて運賃を変えることにより、利用を分散させようとしていることです。
 これを、公共交通の運賃のイメージに当てはめると以下のようになり、これまでの運賃は時間に関わらず一定なのに対して、混雑する時間帯には運賃を上げたり、比較的空いている時間帯には運賃を下げるたりというように、運賃を変動させるというものです。 「トリセツ」でも福本雅之さんが紹介された「【コラム】新型コロナウイルスの影響で減った利用者は元に戻る方が良いか?」で述べられている需要と供給の平準化を進めるためにも、ダイナミックプライシングは重要な手法だと考えられます。

図 混雑状況と運賃の関係性

変動させる要素

 これだけを見ると簡単にできるように思えますが、実際にやってみようとすると変動させるタイミングや範囲、そして表現方法などを考える必要があります。

変動させるタイミング

 混雑しているときに運賃を変動させるには何かしらの方法で混雑を把握する必要があります。飛行機などでは「予約」という概念があるため、予約が多い=混雑しているという考え方がありますが、一般の電車や路線バスには予約という概念がないので同じように行うことは困難です。しかし、新型コロナウイルスに対する対応の一つとして現在の車両の混雑度を表示するというような取り組みがされるようになってきたため、これを活用することはできるかもしれません。

 これが、タイトルにも挙げたダイナミックプライシングです。ダイナミックプライシングは日本語にすると「動的な課金」ということになり、混雑度に応じて動的に運賃が変化していくイメージになるかと思います。しかし、利用者からすると混雑度に合わせて「今」の運賃が変動していくことになり、少々理解しづらいものになります。

 そこで考えられるのが時間帯別運賃となります。時間帯別運賃は「今」の運賃を変動させるのでなく、あらかじめこれまでの統計情報などをもとに、混雑する時間帯の運賃を定めておくことになります。朝のラッシュ時間の7-8時は高いなど、利用者は時間によって運賃が決まっているということだけを意識しておけばよいので、ダイナミックプライシングより理解しやすくなります。
 このような時間帯別運賃は、ロンドンやシドニーなどの海外では以前より実施されているもので混雑の緩和に寄与しています。

変動させる範囲と方法

 ここまでは、主に混雑する時間帯に運賃を上げるという方法が中心でした。しかし、利用を分散させるという目的を考えれば、分散させたい時間帯の運賃を下げるという方法も考えられます。

 運賃の上げ下げはいわゆる「アメとムチ」となりますが、必ずしもアメとムチを同時に行わらなければならないわけではありません。これまでの運賃と比較して、上がっているか下がっているかがポイントですので、片方だけを行うだけでも効果はあります。
 また、アメについては、運賃を下げる以外にも何かしらのメリットがあればよいので、JR東日本の例のようにICカード利用時にポイント付与というような方法も考えられます。

 運賃を変動させるわけでないので本論からは外れますが、交通以外のものにアメを出すという方法も考えられます。例えば夜のラッシュの時間帯に駅周辺の飲食店で利用できるクーポンを出すことで滞在してもらい、利用する時間帯をずらすということもできるかもしれません。

変動させる情報の伝え方

 さらに、運賃の変動をどのような表現で利用者に伝えるのが有効か、というのも考えなければいけません。

 例えば運賃が高くなる時間帯に「今乗ると100円損します」と伝えるか「違う時間に乗れば100円得します」と伝えるか、やっていることは同じですが伝え方によって利用者の受け取り方は異なります。
 また、「今乗ると混雑しています」や「違う時間に乗れば空いています」というように運賃には触れずに、行動した結果だけを伝えるという方法もあります。さらに、「(バスが)混雑しています」→「(あなたが)混雑させます」のように利用者を主語とするということも考えられます。

 伝え方は「アメとムチ」を利用者にとって共感しやすいものとする必要があります。したがって、。アメをポジティブに伝えるだけでなく、ムチについても共感しやすいものとして伝えるために、よく考える必要があります。

結局どの方法が良いの?

 ここまで述べたタイミングや範囲、情報の伝え方の組み合わせのどれが最適化については、結論から言ってしまうというと良く分かっていません。

 情報の受け取り方は人それぞれという面もありますし、利用の分散先として同じ交通手段で別の時間帯に利用する以外にも、マイカーや自転車など別の交通手段に分散するというようなことも考えらるためです。

 ダイナミックプライシングや時間帯別運賃は、新たに注目されてきた取り組みとなりますので、様々な事業者や地域で実証試験が行われていくことになります。皆さんの地域で実施することになった時には、様々なパターンを検討しながら制度設計をしていきましょう。

参考文献

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