自動運転っていつ実用化するの?~新しい技術の受け入れ方

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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自動運転っていつ実用化するの?

天の声
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 何をもって自動運転の実用化というのかは、自動運転の活用の仕方を考える人によって異なります。何ができたら自分たちが望む自動運転になるかを考えてみましょう。

何のための自動運転なのか

 自動運転で公共交通は改善しますか?の記事で自動運転の技術レベルや実用化までの課題を示しました。そして実用化まではまだ時間が掛かるとしましたが、2020年の茨城県境町での導入事例では「社会実装」や「実用化」という言葉が使われています。それでは、あの記事は誤りだったのかというと、言い訳のように聞こえるかもしれませんが、「何をもって実用化とするか」についての考え方の違いではないかと思います。
 考え方の出発点として必要となるのは、その自動運転は何のためにあるのかという所です。人によって色々な意見が出てしまうと思うので、ここでは2つの例で違いを考えてみましょう。

パターン① 路線バスの代替

もともと路線バスが走ってるけれど、昨今取り上げられる運転手不足の影響でこのままでは廃止になってしまう。そのために、運転手が居なくても大丈夫なように自動運転を導入しよう!

 こういった場所では、今走っている路線バスの代替、つまりプロの運転手が運転しているものと同等であることが求められます。このパターンの実証試験は多くの地域で行われており、主にバス事業者などが開発メーカと連携しているところが多いかと思います。
 そして、運行してみたバス事業者からの感想は「思っていた以上にゆっくりだった」「バス停で正着できない」「すぐに手動運転に切り替わってしまう」など、まだまだネガティブなものが多く、実用化するには時間がかかるという印象です。 

パターン② 新しい移動手段の確保

路線バスはもう10年以上前に廃止された、地元のタクシー会社も全て廃業して隣の市から1時間以上かけて配車してもらってる。住民同士での互助輸送も考えたけれど担い手も高齢化してしまって運転に不安があるので、自動運転を導入しよう!

 こういった場所では、何かの代替ではなく今はできない移動を新たに可能にするものとして自動運転があります。このパターンでは主に開発メーカが連携するのは自治体となり、境町の自動運転もこれに当てはまります。
  こちらの場合で感想を求められるのは主に利用者となり「ゆっくり走るので安心だった」「新たな移動手段ができて便利になった」など、ポジティブなものが多く、こういった感想を踏まえて、運賃を取るなどの持続性を確保できるのようになれば実用化も間近です。

 これは少し極端な書き方で、パターン①場合でも最新技術への期待からポジティブな反応があったり、パターン②の場合では同じ移動手段でもコストパフォーマンスが悪いというようなネガティブな反応もあります。しかし、それを含めて自分たちが何に価値観をおいて自動運転を受け入れるのかという違いでしかありません。

 境町で導入されている車両は時速20㎞未満で走行します。そのために、目的地までの移動には時間が掛かり、運行時は車両の後ろに渋滞が発生する場合もあります。しかし、利用する人が時間が掛かることを最初から理解し、後ろに渋滞した車はバス停の停車時に追い越していくことを当たり前だと受け入れられるのであれば、それはもう実用化されたと考えてよいのではないでしょうか。

当たり前品質と魅力的品質による評価

 ここまで書いてきたこと少しだけ専門的な言葉を使って一般化したいと思います。

 人が何かしらの製品(今回であれば自動運転車両)の品質を評価する時に使われる言葉として、「当たり前品質」と「魅力的品質」という言葉があります。
 品質が向上すればそれと比例して満足度も上がるものを一元的品質といいますが、多くの製品では必ずしもそのようにはならず、何に価値観を置くかによって満足度は変わっていきます。

 これに対して「当たり前品質」というのは、その品質があるのが当たり前であって、どれだけ品質が向上したとしても一定以上の満足度が得られないものをいいます。逆に、当たり前だからこそ、それが損なわれていれば当然不満足の度合いも大きくなります。
 これを自動運転にあてはめてみると、多くの利用者は公共交通が安全であって当たり前だと思っており、少しでも安全でない場合は大きな不満に繋がると考えられます。

  また、「魅力的品質」というのは、新たな魅力的な品質が加えられて満足を得るものをいいます。これまでなかったものですから、それが損なわれていても不満足にはなりません。むしろ、品質があまり高くなくても少しでも魅力的な要素が加わるのであれば、それに応じて満足度は上がっていきます。  
 まだ、時速20㎞でしか走れない自動運転は、別の場所で走っている路線バスに比べると不便なものかもしれませんが、そこにこれまでなかったものですから、時速20kmだとしても大きな満足が得られるのです。

図 当たり前品質と魅力的品質のイメージ

 パターン①は「当たり前品質」の考え方であり、パターン②は「魅力的品質」の考え方になります。注意しなければならないのは自動運転はどちらのパターンで考えた方が良いかということでなく、導入する地域がどちらの考え方であるかによって評価が変わるということです。

 これは自動運転に限らず、車両の電動化やMaaSといった新しい技術を導入しようとする時には同じことがいえます。何に価値観をおいて導入するのかによって結果は真逆になってしまうこともあります。皆さんの地域で様々な実証試験を行う際には、これをよく考えて評価するようにしましょう。

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