MaaS(Mobility as a Service)とは、なんですか?

担当:諸星賢治(MoDip/株式会社トラフィックブレイン)

行政担当者
行政担当者

少し前から色々なところでMaaS(マース)という言葉を聞きますが、そもそもMaaSってなんでしょうか?

天の声
天の声

「Mobility as a Service」の略で、利用者が自家用車に頼らなくても様々な移動手段を組み合わせて満足度の高い移動が行えるようにする考え方となります。

「●● as a Service」、個人所有から共用へ

 「●● as a Service」は、IT業界で以前から使われている考え方になります。まずはこちらの言葉の意味を考えてみましょう。
 インターネットが発達する前の時代には、サーバーと言えば物理的なサーバー機器のことを指していました。当時、サーバー機器は記憶容量や設置場所、インストールするOSなどを考慮しながら機器の導入を行っていました。また同じ時代には、手元のPCで何かソフトウェアを使う時には、専用ソフトウェアを家電量販店などで購入し、それを手持ちのPCにインストールして使う形が一般的でした。
 ところが、インターネットやIT技術が普及した昨今では、ユーザーがファイルを保存しようと思えば、世界のどこかにある保存領域をネットワーク越しに必要な量だけ使う事ができ、物理的な制約を受けなくなりました。また音楽を聴こうと思えばCDやプレーヤーを買う事なくインターネット経由で様々なサービスやデータを利用できるようになりました。
 そのサービスを支える技術が「Infrastructure as a Service(IaaS)」「Platform as a Service(PaaS)」「Software as a Service(SaaS)」など、「●●+as a Service」という名称で呼ばれるもので、これらを総称して「XaaS(X as a Service)または(EaaS)Everything as a Service」と呼んでいます。そして、その技術を活用して生まれたサービスの代表例が「iCloud」「GoogleDrive」「Hulu」「Netflix」などになります。
 ユーザーは、手元にインターネットに繋がったPCやスマートフォンさえあれば、その機器を入口として、インフラ設備や専用のソフトウェアを所有しなくても、インターネットを通じて様々なサービスを必要な時に必要な分だけ利用する事が当たり前の時代になってきました。個人所有が当たり前の時代から、共用が当たり前の時代になってきています。そのような中、「Mobility as a Service(MaaS)」は、公共交通や移動シェアリングサービス(カーシェア、サイクルシェアなど)を『社会共有のインフラ』とみなし、個々人が必要に応じてこれらのサービスを共用するための概念として誕生しました。

MaaS(Mobility as a Service)とは

 「MaaS」とは欧州で生まれた概念であり、「個人所有のクルマに頼らずとも、様々な移動手段を組み合わせることにより、個人所有のクルマと同等またはそれ以上の満足度が高い移動を実現する」考え方です。中心となる考え方は「利用者にとって満足度が高い移動を実現すること」であり、その実現の為に様々な移動手段を統合する手段としてICT技術が用いられます。
 今の日本国内では「MaaS」に関する様々な定義や解釈が乱立している状況にあり、大きく分けると以下の3種類に分類する事が出来ます。

  • タイプ1:移動サービス全体をシームレスに繋ぐ「統合型」
  • タイプ2:移動サービス内への「付加価値創出型」
  • タイプ3:移動サービス手段の「付加価値向上型」

 タイプ1は、交通計画や交通ネットワークの構築というアプローチで行われ、ヘルシンキの事例など欧州の他地域でもこの考え方が多く見受けられます。一方タイプ2,3は、個々の交通手段のサービスを高めていく過程のアプローチであり、車内での商業施設クーポン配信、タクシー配車アプリのようなサービスを指す事が多いです。今回のトリセツでは、「MaaS」を上記のタイプ1と捉えて話を進める事とします。
 MaaSを考える上で忘れてはならない事として、MaaS発祥の欧州ではMaaSという概念が議論される以前に、モータリゼーションの影響で起きたマイカーブームにより都市のスプロール化、大気汚染、交通渋滞といった問題が日本より早く顕在化しており、その対策として自動車利用を前提とした社会から公共交通利用を中心とした社会への転換が都市単位、または国単位で進められてきた背景があります。その過程の中で、利用者の公共交通利用時の利便性を向上させる為に、「(運輸連合のような)単一組織での公共交通機関の運営」「ゾーン制運賃」「信用乗車」といった取組が行われており、MaaS導入をスムーズに進められる状況が揃っていました。日本でもMaaS導入を進めるのであれば、ユーザー向けのアプリケーションや電子チケットの提供だけではなく、まず欧州の都市交通で一般的になっているこのような考え方をベースにすることが理にかなっていると言えます。

MaaSに自家用車は含まれないのか?

 MaaSの考え方には「所有から利用へ」という概念があるので、本来であれば個人でしか利用しない自家用車は含まれないと考えるのが通常の考え方となります。しかし、台湾南部の都市、高雄市で行われているMaaS「Men-Go」などでは、月額チケットを購入したユーザー向けに、駅最寄り駐車場にも利用できる無料ポイントが付与されたり、必ずしも自家用車の利用が排除されている訳ではありません。むしろ自家用車や自家用二輪車を使っている利用者を取り込む施策が考えられているともいえます。欧州のMaaSという概念に固執することなく、地域の事情にあったカスタマイズがされている事例といえます。


Men-go駐車場でのポイント利用に関する案内

 このように、MaaS=「定額制料金の導入」「電子チケット」「自家用車は含まない」などと決めつけて可能性を狭めるより、地域特性に合ったカスタマイズを行い、MaaSの利用者を増やすことも大切な要素となります。また、高雄市のMaaSには「若年層の交通事故削減」「大気汚染対策」といった目的があるので、自家用車の移動時間を少しでも短くし公共交通での移動を長くする事が中心に設計されております。このように、利用者を増やす事や利益を上げる事を第一目標とせず、地域課題の解決にMaaSを活用している部分も重要なポイントとなります。

参考

MaaS入門: まちづくりのためのスマートモビリティ戦略(森口将之 著)

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