電気自動車って本当に環境に良いの?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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電気自動車って本当に環境に良いの?

天の声
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 走行時にCO2を排出しないのが電気自動車の特徴ですが、車両の製造時や走行するためのエネルギーとなる電気の発電時のCO2の排出も含めて考える必要があります。

LCAによる車両製造時の環境負荷

 脱炭素やカーボンニュートラルなど最近良く出てくるキーワードかと思います。公共交通が含まれる運輸部門においてもCO2排出削減が求められており、その方法の1つとして車両の電動化が注目されています。その中でよく使われる謳い文句に「走行時のCO2排出0」というものがあると思います。走行時にCO2排出がないことは確かに環境に良いことですが、走行時以外はどのようになっているでしょうか?

 環境負荷を考えるときの手法としてLCA(ライフサイクルアセスメント)という考え方があります。LCAとは自動車に限らず、製品の利用時だけでなく製造や廃棄の際のCO2排出も含めて算出する手法です。電気自動車は走行時はCO2の排出はありませんが、車両を製造するときCO2を排出しています。従来の内燃機関自動車と比べると、電気自動車にはこれまでなかったバッテリが搭載されています。そして、バッテリの製造時には大きな環境負荷が掛かるといわれています。

 下記に示すのはLCAを考え方を踏まえた内燃機関自動車(ガソリン=青、ディーゼル=赤)と電気自動車(緑)の環境負荷の比較です。電気自動車は製造時の環境負荷が大きいため、走行を始める前の段階では内燃機関自動車に比べて環境には悪くなります。しかし、走行時のCO2排出がないため徐々にその差は縮まり、ガソリンエンジン車では7万6千km、ディーゼルエンジン車では11万km走行すると逆転します。また、内燃機関と違ってバッテリには寿命があり、使い方によっては途中でバッテリを交換する必要があります。例えば16万kmで交換した場合には、新たにバッテリ交換した分の環境負荷が掛かるため再逆転してしまう可能性もあります。
 図は乗用車での試算ですのでそのまま当てはめることはできませんが、乗合バスの1年間の走行距離は5万kmから6万km程度といわれていますので、2年間走れば製造時を含めても環境に良いということになります。電気自動車は走れば走るほど環境に良くなっていきますので、走行距離の長い公共交通への導入には向いているといえます。

図1 内燃機関自動車と電気自動車のLCAによる評価
(R.Kawamoto et al.: Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA, Sustainability 2019)

Well to Wheelによる発電時を含めた環境負荷

 図1を見て「走行時のCO2排出0」のはずなのに、電気自動車も走行距離が伸びるほど環境負荷が増えてることに疑問を持たれるかもしれません。これは走行時だけでなく、走行に使うエネルギー=電気の発電時のCO2排出が含まれているからです。

 車の走行時のCO2排出には、Tank to Wheel とWell to Wheelという2つの考え方があります。Tank to Wheel は自動車の燃料タンク(またはバッテリ)からタイヤを駆動するまで、Well to Wheelはそれに加えて、油田(または発電)からタイヤを駆動するまでを対象とします。LCAの考え方では走行時の全てを対象としますので、Well to WheelでCO2排出を考える必要があります。

 それでは発電時のCO2排出はどのように考えれば良いでしょうか?発電方法に火力や原子力、再生可能エネルギーなど様々な方法があります。現状ではこれらを一纏めにして環境省の「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」により、発電時の排出原単位として公表されています。
 しかし、発電方法の割合は年々変わっていきます。東日本大震災前は原子力発電が一定の割合を占めていました。現在ではその多くが停止しており、それに変わって再生可能エネルギーの導入が徐々に進んでいますがまだ十分ではなく、足りない分を火力発電で補っているのが現状です。

図2 発電構成とCO2排出原単位

 自動車のCO2排出量は走行距離×CO2排出原単位で算出されます。そのため、東日本大震災前に比べて震災直後では1.6倍、再エネ導入が進んだ現在でも1.3倍のCO2排出となります。今後も再生可能エネルギーの導入は進むと考えられますが、火力発電の代替となるにはまだしばらく時間がかかりそうです。

電気自動車の良さは環境だけではない

 ここまでネガティブな書き方をして来ましたが、CO2排出が0でないだけで、環境に良いか悪いかという視点で見れば、電気自動車は環境に良い車両です。再生可能エネルギーの導入が進めば同じ車両でも、さらに環境に良い車両ということになっていきます。

 公共交通車両は前述のように年間の走行距離が長くCO2排出削減に効果的です。また、電気自動車は一充電あたりの航続距離や充電時間の確保などにまだ課題がありますが、公共交通車両は乗用車と違い1日の使い方をある程度把握できるため導入がしやすいというのもメリットです。

 さらに、電気自動車には環境に良いだけでなく、騒音や振動が少ないという特徴があります。騒音は街中を走るコミュニティバスには重要ですし、振動が少ないことは車内の転倒事故の防止にも繋がります。電気自動車の導入時には、こういったことも含めて検討してきましょう。 

参考文献

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