なぜ公共交通を支える必要があるのでしょうか?

土井 勉(一般社団法人グローカル交流推進機構) 

バスを使うことがないのに、どうして自分が払った税金の一部をバスなどの補助金に使われるのだろうか?

それは人々の移動を支えることで、バスを使わない人たちにとっても住みやすい社会を維持することができるからです。

国土交通省の資料を見ると、バスや鉄道など地域公共交通の7割以上の事業者は赤字です。この図を見ると、鉄道やバスを経営する場合に赤字の不採算路線については減便や廃線をされる背景が見えてきます注)

図-1 2019年度の地域鉄道とバス事業者の経営状況

いくつかの減便や廃線はあるものの、多くの鉄道やバスは赤字にもかかわらず運行されているのは、なぜでしょうか?

それは、鉄道やバスの事業者が運輸部門以外で得た収入でバランスを取っている場合や、運行に対する赤字を行政が財政支援することで支えられているケースが多いからです。

そこで、バスを使わない納税者からは上の質問のような意見がでたりします。

また、赤字だということは市場で成立しないのだから、撤退が相応しいという意見も聴くことがあります。人々が必要とするなら、もっと利用者が多くなり黒字になるはずだということですね。

しかし、公共交通を支えるということは、バスや鉄道を利用しない人たちにとっても大きな意味があります。

① 皆が自動車を利用できるわけではない

自動車型の地域であっても、人口の2~3割は「自動車を気軽に利用できない人たち」が存在します。「トリセツのコラム」でも紹介をしています。免許を持たいない高校生や高齢者や障がいをお持ちの人たちや、マイカーを持つことがない人達もここに含まれますね。

こうした人達の移動は家族などの送迎によることが多くなります。しかし、実際に送迎してもらう人々は遠慮や気兼ねが生まれることで、外出の回数が減少する場合(移動需要の潜在化)があります。また、送迎する方も負担が大きなことは様々な調査でも把握されています。

これに対して、一人で自由に移動ができる仕組みとしての公共交通があると、移動需要の顕在化を期待することができ、外出した人たちがまちで様々な活動をすることで、地域に活力が生まれてくることが期待できます。

例えば、障がいのある方がバスを使って通勤ができるようになる場合もあります。そうすると、自立して生活ができるようになります。その人にとってはもちろんですが、社会にとっても望ましいことだと言うことでできそうです。

さらに潜在化した移動が顕在化することで、人々の健康維持やフレイル予防にも効果があることが期待できそうです。

また、中学生にとっては、高校通学の選択肢が公共交通があることで拡大する可能性もあります。

公共交通がないため希望する高校に通学ができない場合は、下宿をして通学をする場合も少なくありません。あるいは下宿ではなく、親が子供の高校の近くに転居する場合もあります。一家で人口が流出することになります。

こうしたことに加えて、地域に公共交通がないと、高齢者になって運転能力が低下しても免許を保有し続けなければならないと考える若い人たちにとっては、「では、高齢者になる前に移住するか」ということにもなりかねません。人口が流出する原因の一つにもなります。

公共交通がないこと人口流出が加速されることが懸念されることになります。

② 「束ねて」移動を支える仕組み

鉄道やバスなど地域公共交通は、多様な目的を持つ人々の移動を一度に束ねて運ぶことができるので、都市空間を効率的に活用することができます。束ねて移動することで、個別の移動の仕組みに比べると例えば道路における渋滞を抑えることができます。

図-2 深刻な渋滞(ウランバートル 2019年)

③ 移動に仕組みは都市構造に影響する

移動手段の都市構造にも関わってきます。自動車の渋滞対策を行うと、人口などが集積するまちなかを避けて、郊外に道路と人口密度の低い市街地を展開することになります。そうすると、自動車が持たないと不便な市街地が増加することにもなります。人々の移動を束ねることや、移動の増加が期待できる公共交通を適切に計画し運行することで、人口密度の高い都市構造を維持することが期待できます。まさに、「コンパクト・プラス・ネットワーク」なまちづくりを推進することができるのです。

④ クロスセクター効果が期待できる

公共交通への支援を行うことで、得られるクロスセクター効果が期待できます。クロスセクター効果についてはトリセツの記事を参考にして下さい。

例えば、行政が税投入をして運行しているバスに対して、この税投入をやめたとして、別途病院送迎バスを運行するなど個別の目的ごとに移動の仕組みを準備する必要になります。これら目的別の代替手段を準備する費用の方が、運行支援の税投入よりも高くなることが多くあります。こうしたクロスセクター効果がある場合は、バスなどを使わない納税者にとっても効果的な税の支出だということになります。

このように、公共交通を支えて人々の移動が行いやすくすることで、公共交通を利用する人々にとっての効果だけでなく、送迎をする人々の負担軽減、渋滞対策や都市構造の充実、クロスセクター効果の存在などにより、公共交通を使わない人々にとっても様々な効果があることがわかります。

また、例えば高校通学の足を支えることで、希望の高校に通学するために下宿や転居をする必要がないとすると人口の流出抑制にも効果が期待できそうです。こうして考えてくると鉄道やバスなどの地域公共交通は、多様な人々の移動を支えることで人口定着や地域社会の安寧を実現するツールの一つであることがわかります。

 注)2020~2021年のコロナ禍で、こうした赤字の状況はもっと深刻になっています。

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