コラム:LRTとBRTの特徴を起源から考える

担当:福本雅之(合同会社おでかけカンパニー)

 こちらの記事でも書いたように、LRTとBRTは、両者とも都市内の基幹的公共交通を担うべく、輸送力を高める工夫をしています。そのためのアプローチとして、専用走行空間を設けて走行速度を高めるという点は両者に共通しています。一方、興味深いことに乗降や運賃精算をスムーズに行うための工夫は両者で真逆のアプローチを取っています。本稿ではこの違いについて考えてみましょう。

LRT・BRTという名前の持つ意味

 LRTとBRTは1文字しか違いませんが、実は両者の持つ意味は全く異なります。これを理解することも両者の違いを考えるヒントになります。

 LRTはLight Rail Transitの略で、通常の鉄道(都市内の場合、地下鉄に相当)に比べてLight(=軽量で簡易な)であるという意味です。ここで注意しなければならないのは、この「Light」が車両に対して用いられているのではなく、システム全体に対して用いられていることです(軽量の車両のみを指す場合はLRV: Light Rail Veichleと言います)。つまり、専用走行空間を有する地下鉄は定時性・速達性に勝るものの、フルスペックのものを作るにはシステムが複雑で大規模となるため、車両やインフラを軽量・簡易にしたものがLRTということになります。このため地下鉄に比べて、車両の小型・軽量化や、駅施設の簡素化、軌道の軽量化が図られています。地下鉄並みの定時性・速達性を、路面電車並みの簡素な車両や施設で実現しようとしたとも言えるでしょう。

 一方のBRTは、Bus Rapid Transitの略で、バス車両を用いたRapid(=高速)な交通機関という意味です。我々が通常「地下鉄」と呼んでいる都市内の鉄道は、渋滞に巻き込まれる路面電車に比べて速いことから、法令上、「都市高速鉄道」名付けられています。BRTの「Rapid=高速」も同様で、都市内の混雑した道路交通や路面電車に比べて高速であるということを意味しています。一般車両と同じ道路を走ってしまうと混雑に巻き込まれて高速ではなくなりますから、専用レーンを設けて渋滞を回避し、さらに駅のような停留所施設を設置して短時間で乗降できるように工夫されています。つまり、車両としてはバスを用いながらも、専用走行空間の確保や、駅施設の整備によって地下鉄に近いものを実現しようとしたとも言えます。実際に、ブラジル・クリチバではBRTの別名として「Surface Subway=地上の地下鉄」という言葉も使われています。

共通する工夫は乗降時間の短縮

 さて、専用走行空間の確保とは別に、LRT・BRTともに乗降や運賃精算をスムーズに行えるよう工夫しています。利用者の乗降にかかる時間を短縮して、走行速度の向上と併せて速達性を高めるためです。

 スムーズな乗降を実現するために、LRT・BRTともに、停留所と車両の床の高さを同一レベルにしています。このとき、LRTは車両の床を低くするアプローチを取っているのに対して、BRTでは車両の床はそのままで、クリチバのチューブ型バス停に代表されるようにプラットフォームを設けるアプローチを取っています。

 もう一つの運賃精算ですが、バスや路面電車のように乗降時に一人一人の利用者が乗務員に運賃を支払う方式では、運賃のやりとりに時間がかかってしまいます。このため、LRT・BRTともに停留所に止まったら、車両は全てのドアを開いて一斉に乗降させるようにしており、ドア付近で運賃収受のために利用者が滞留しないようにしています。そのために、LRTでは信用乗車方式を導入して車内での運賃収受を簡素化しているのに対して、BRTではプラットフォームに改札を設けて車外で精算を済ませることとしているケースが多く見られます。

 同じ目的なのに、なぜアプローチが真逆になっているのでしょうか? その理由は、LRTが欧米において、BRTが南米において生み出されたことと関係があると思われます。

欧米で生まれたLRT

 LRTと聞いて連節式の低床型路面電車を思い浮かべる人は多いでしょう。

 低床式連節車両は、1990年代頃から欧米各地のLRTに導入が進みました。鉄道車両は、走行のための台車が必要であることと、制御機器などはメンテナンスの都合や車体の強度の関係から床下に吊り下げることが一般的であり、車両の床を低くすることは難しかったのですが、技術進歩によって小型の大出力モーターが実現できたことや、車載電子機器の小型・軽量化が進んで屋根上への配置が可能となったこと、連節車両とすることで機器を分散配置することが出来るようになったことなどにより、低床式車両の製造・運用が可能となりました。こうした高度な技術開発は、欧米先進国であるからこそ実現できたと言えます。

写真1 プラットフォームと同一レベルで乗降できる車両(米国・ポートランド)

 信用乗車方式は、利用者自身が切符に入鋏するもので、停留所や駅であらかじめ切符を購入して乗車し、車内のバリデーター(刻印機)と呼ばれる機械で日付を打刻することが一般的です。信用乗車方式の場合、不正乗車が増えることが懸念されることから、抜き打ちで車内検札を行い、乗車券に打刻していなかったり、乗車券を保有していなかったりする場合、かなりの金額の罰金を課す仕組みとなっています。信用乗車方式の導入によって、乗降時に乗務員が一人一人の利用者の乗車券をチェックしなくて済むため、全ての扉を乗降に使うことができ、乗降時間の短縮につながります。一方で、利用者にとっては、事前の乗車券購入や車内での打刻などが煩雑となりますし、運行事業者にとっても全ての停留所に券売機を設置することが必要となります。この問題を解消したのがICカードです。ICカードによって、乗降時に車内のICカードリーダーにタッチするだけで自動的に運賃精算が可能となり、信用乗車方式のメリットが増したと言えます。ICカードシステムの開発も、欧米先進国でなければできなかったと言えるでしょう。

写真2 車内のICカードリーダー(ポルトガル・リスボン)

 LRTにおける低床式車両の開発や信用乗車制の導入といった工夫は、技術的に成熟した欧米先進国において考案され、進化してきたものと考えられます。

南米で生まれたBRT

 一方のBRTの元祖とされているのは南米です。特に有名なものがブラジル・クリチバのBRTです。通常のバスのように路上のバス停で乗降するのではなく「チューブ」と言われる“駅”を設置したことが特徴の一つです。

 クリチバのバスは低床式のノンステップバスではありませんが、チューブの床がバスの車両の床高さと同じ高さにそろえられているためスムーズに乗降することができます。クリチバのBRTは1974年に運行を開始していますが、当時は欧米先進国でもノンステップバスは開発されていませんでした。バスの床を低くすることができないのであれば、プラットフォームを設けて高さを合わせようと考えられたのがチューブです。

写真3 チューブバス停に停車するバス(ブラジル・クリチバ)

 なお、クリチバを始め、特に途上国の各地で導入されているBRTでは、現在でもノンステップバスを導入するのではなく、床の高いバスを用いた上で駅にプラットフォームを設ける方法が主流です。この理由として、ノンステップバスの車両は価格が高い上に、構造が複雑でメンテナンスが大変であることが考えられます(欧米諸国で近年導入されつつあるBRTでは、低床車両を用いてプラットフォームのかさ上げはされていません)。

写真4 ハノイBRTの車両。ドアが床の高さにあるのがわかる(ベトナム・ハノイ)
写真5 英国・ケンブリッジのBRTの車両。低床バスを用いている(英国・ケンブリッジ)

 チューブにはもう一つの特徴があります。それは、入口に改札があり係員に運賃を支払わないと中には入れないことです。通常の路上バス停と違い、専用プラットフォームを設けたため改札を置くことが可能となりました。これにより、あらかじめ停留所で運賃精算を行うことで車内での運賃収受を廃し、乗降にかかる時間を短縮できるようになりました。この方式も途上国各地で導入されているBRTの多くで踏襲されています(欧米諸国のBRTではICカード普及後に運行開始をしたものが多いためか、車内精算型が主流です)。

写真6 チューブの改札

 実は、駅設置と車外での運賃精算による乗降時間の短縮というアイディアは、クリチバの市長を務め、BRTを考案したジャイメ・レルネル氏(1937-2021)が日本を訪れて阪急電車に乗った際、駅での停車時間の短さに驚き、その理由を考える中で思いついたものだと言うことです。新たな技術を開発するのではなく、途上国でも実現可能な方法を工夫することで解決策を導き出したものだと言えます。

おわりに

 こうして考えると、LRTとBRTは同じ目的を持っていながら、LRTが欧米先進国が技術開発による課題解決を目指して発展してきた一方で、BRTは途上国で実現可能な工夫を積み上げることで課題解決を目指してきたという違いがあり、それが両者の特徴に影響を与えているということが理解できるかと思います。

 この両者のアプローチはいずれが優れているとか劣っているというものではありません。当時の欧米や南米諸国と異なる状況にある現在の日本においてLRTやBRTを導入するとすれば他のやり方もあると思いますが、何を目的としてどう実現するのか、という点で参考にすべきものではないでしょうか。

参考文献

  • 中村文彦・牧村和彦・外山友里絵:バスがまちを変えていく~BRTの導入計画作法~、計量計画研究所、2016
  • 中村文彦:都市交通のモビリティ・デザイン、SUNNET、2017
  • 新谷洋二・原田昇編著:都市交通計画第3版、技報堂出版、2017
  • 服部圭郎:都市の鍼治療データベース166クリチバのバス・システム、https://www.hilife.or.jp/cities/data.php?p=1748、最終閲覧2021.8.28.
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