公共交通案内の外国語・インバウンド対応はどうすれば良いですか?

担当:辻堂史子(株式会社ティデザイン)

行政
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アフターコロナに向けて、外国語案内も必要だと思うけど、何から始めたらよいのかな?英語も話せないし。。。。。

天の声
天の声

一人で悩まず、関係者みんなで取り組むことが大事です。先進事例を「マネする」ことで誰でも対応することができますよ!

はじめに

皆さんは、旅行や出張で初めて訪れたまちで鉄道やバスを利用された時に困ったことはありませんか?切符はどこで買うのだろう?持っている乗車券は使えるだろうか?どの鉄道に乗れば良いのだろう?どこからバスに乗るのだろう?いつ運賃を払うのだろう?初めてのまちでの公共交通利用は、不安がいっぱいです。言葉が通じない外国のまちはもちろん、日本のまちでも困ったことがあると思います。

この「初めてのまちで困ったこと」は貴重な体験であり、これが「利用者視点」での公共交通案内につながっていきます。

「そんなことは分かっているよ」、「早く外国語案内、インバウンド対応の説明を」と思われた方は、直ぐにでも充実した外国語案内が実践できると思います。ポイントを知れば、「日本語の案内」も「外国語の案内」も同じであることが分かって頂けると思います。

それでは、事例を交えながら、外国語案内のポイントや進め方を紹介しましょう。

数字で見よう!外国人来訪者の公共交通利用

外国人来訪者の公共交通利用について、他都市での調査結果から数字を見てみましょう。

外国人来訪者は、日本で公共交通を利用する時、何に困っているのでしょうか? 空港や鉄道駅、観光地などの目的地よりも、路線バス利用時に多くの方が困っているようです。やはり、路線バスの利用はハードルが高いようです。

資料:「ワールドマスターズゲームズ2021関西」の開催地における二次交通のあり方に関する調査(近畿運輸局 交通政策部 交通企画、2020年1月)(調査対象:大阪府、兵庫県、京都府、奈良県内の路線バスを利用した訪日外国人観光客495人)

内容については、「目的地までどのバスに乗ればいいのか分からなかった」、「バス停が目立たず分かりづらかった」など、「バス停までの案内表示」で困った方が多いようです。ここを重点的に案内することで、バス利用のハードルが下がります。

資料:「ワールドマスターズゲームズ2021関西」の開催地における二次交通のあり方に関する調査(近畿運輸局 交通政策部 交通企画、2020年1月)(調査対象:大阪府、兵庫県、京都府、奈良県内の路線バスを利用した訪日外国人観光客495人)

   そもそも、外国人来訪者は日本語がどの程度分かるのでしょうか?想像通り、ほとんどの方は日本語が理解できません。一方、ほとんどの方が英語であれば日常生活で困らない程度は理解できることが分かります。複数言語での案内の必要性は低いと言えます。

図 外国人観光客の日本語・英語能力

資料:京都市の路線バス・鉄道における外国語案内に関するアンケート調査(京都市外国語案内充実ワーキング、2016年12月)

    また、バスに乗るときは何を見て乗っているのでしょうか?系統番号は、日本人、外国人ともに9割が確認します。漢字を理解できる「中国人・台湾人」は、「英語の行き先表示」よりも「日本語の行き先表示」を必ず確認する方が多く、「その他の外国人」は「英語の行き先表示」を必ず確認する方が多いです。一方、車両カラーは日本人、外国人ともに確認する方が少ない状況です。

バス車両の案内表示については、「系統番号」および「行き先表示(日本語・英語)」の重要性が分かって頂けると思います。

図 路線バス乗車時の確認事項

資料:京都市内における公共交通についてのアンケート調査(京都市外国語案内充実ワーキング、2019年11月)

ポイントを理解しよう!

外国人来訪者の公共交通利用の現状を踏まえ、公共交通における外国語案内のポイントを5つ紹介します。

①日本語の統一

日本語の統一を図りましょう!

同じバス停なのに、運行事業者によってバス停名称が違う箇所はありませんか?日本語が違えば、自動的に英語も違う表記になります。まずは、日本語を統一しましょう。

例えば、京都の玄関口である京都駅より一本北側、市内の主要な東西の通りの一つである「七条」。「七条」の行政上の発音・表記は「しちじょう」ですが、京都弁では「ひちじょう」もしくは「ひっちょう」と発音されます。しかし、大正時代に開業された市電の時代から、路線名や停留所など交通事業においては「ななじょう」と呼んでいました。これは、一条(いちじょう)、四条(しじょう)との間違いを避けるためといわれています。そのため、市電の流れを汲む市バスは「ななじょう」、京都バスは「しちじょう」と案内していましたが、京都バスの案内表現を市バスに統一させ、シームレス化を図るため、2016(平成28)年3月に烏丸七条のバス停名称を「からすましちじょう」から、市バスの「からすまななじょう」に統一しました。「烏丸七条」の漢字を見ると日本人は同じバス停だと理解できますが、「shichijo」と「nanajo」では、全く別の停留所と認識してしまいますね。

図 京都バスにおけるバス停名称統一の事例

資料:外国人利用者に向けた公共交通案内情報の共通化をめざした取組指針(京都市外国語案内充実ワーキング、平成29年3月)

②分かりやすい目的地設定

分かりやすい目的地を設定しましょう!

例えば、効率的な運用を考慮した「行き先:○○営業所」というバスを見かけることがあります。しかし、その営業所に目的がある市民はほとんどいないと思います。それであれば、方向幕には、その営業所の2~3つ手前にある駅など市民が多く来訪する目的地を表示するなど工夫しましょう。外国人来訪者だけではなく、日本人にも分かりやすい路線となります。

図 京都市バスにおける分かりやすい目的地設定の事例

写真:井上学氏撮影

③日本語+『α』の表記

日本語+『英語またはピクトグラム』で案内しましょう!

先ほどグラフで見ていただいた通り、ほとんどの外国人来訪者は英語がある程度理解できます。そのため、案内の空間的制約が多いバス停やバス車両などにおいては、日本語+『英語またはピクトグラム』の案内で充分であると言えます。

ただし、非常時や災害時は母国語での案内が安心できるため、鉄道駅やホームページなど紙面制約が少ない箇所については、複数言語での案内が有効です。

また、英語表記についても、分かりやすい英語への統一が重要です。

例えば、駅前広場のバスのりばにおいて、「バス総合案内看板」を直訳すると「Bus general information sign」ですが、ここまでの表記は必要でしょうか?「Bus information」で充分ですし、「バスのピクトグラム」を併記するならば英語表記は「Bus」だけでも充分だと思います。英語表記は直訳ではなく、直感的に分かりやすい表記とすることが重要です。そして、地域内においては英語表記も統一することが重要です。

余談ですが、米国の方、欧州の方、東南アジアの方、中国の方など、出身国や使用言語の違いにより、分かりやすい英語が異なるようです。その点からも、直感的に分かりやすい英語やピクトグラムが有効であると言えます。

図 バス停での『日本語+ピクトグラム』の事例〔京阪バス〕

写真:京阪バス株式会社提供

④ナンバリング(系統番号の設定)

先ほどグラフで見ていただいた通り、日本人、外国人含めほとんどのバス利用者がバスの系統番号を確認して乗車しています。また、最近ではGoogle Maps等の乗換検索により路線バスを利用する来訪者が増加しているため、系統番号は重要な要素となります。

ナンバリングにより、外国人のみならず、その土地に不案内な日本人来訪者や子どもなどにも分かりやすい路線となります。

松戸新京成バス バス停ナンバリングの例(出典:新京成電鉄HP)

⑤シームレスな案内

途切れの無いよう、シームレスに案内しましょう!

スムーズに公共交通を利用してもらい利用者を目的地へ案内するためには、利用者が目にする媒体の全てにおいて情報を統一して案内することが重要です。

地域公共交通の案内情報は、乗り換え検索アプリや検索サイト、施設のホームページ、ガイドブックなど、利用者が事前に調べる『タビマエ情報』と、駅やバス停の案内看板、時刻表、行先表示、車両での案内、現地にある案内掲示物など利用者が行動中に目にする『タビナカ情報』に分類することができます。これらの情報全てにおいて表現や単語が統一していることが重要で、異なっていると、利用者が現場で混乱する大きな要因になります。

例えば、ガイドブックでは「大阪駅」と表示されているのに、現場のバス停名称は「大阪駅北口」になっているなど、ちょっとした表記の違いが混乱の原因となります。更に、これが異なる英語表記となると、外国人来訪者には全く異なるバス停と認識されます。

特に、鉄道とバス、バスと他社のバス、公共交通と他分野(観光など)などの継ぎ目においては、シームレスな案内を心がけましょう。

例えば、下記の「新宿ターミナル基本ルール」例では、サインの表現や外観に一貫性を持たせるため、下記の様なルールが定められています。

  • ターミナル内の移動に伴い必要な情報を見失わないよう、レイアウト、書体、色彩に一貫性を持たせる。
  • 利用者がどこにいても同じ機能のサインであることを容易に認識できるよう、外観に一貫性を持たせる。
  • 管理区域ごとの個別の制約条件を踏まえた、具体的なデザイン例を定める。
東京都都市整備局:「新宿ターミナル基本ルール」

実践しよう!

公共交通における外国語案内のポイントが理解できたら、あとは実践あるのみです。

英語が苦手な交通事業者の皆さま、コミュニティバス担当1年生の行政の皆さまなど、誰もが第一歩を踏み出せるためのステップをご紹介します。

①連携の場を設けましょう

交通事業者1社や行政担当者1人だけでは、大変な作業であり、悩みだけが増幅し、なかなか前進しません。そこで、地域の関係者が連携して外国語案内の充実を推進できるよう、連携の場を設けましょう。

行政発信で連携の場を設けた事例としては、「和歌山県熊野地域」があげられます。和歌山県が音頭を取り、バス事業者4社と連携して取り組みを進めています。

交通事業者発信で連携の場を設けた事例としては、「京都市外国語案内充実ワーキング」があげられます。バス事業者の発案から、京都市内の鉄道事業者8社、バス事業者8社が連携して取り組みを進めています。なお、京都市や近畿運輸局はアドバイザーとして参画しています。

同じ悩み・課題を分かち合える仲間がいると取組が加速しますし、モチベーションの維持につながります。

②マネましょう

外国語案内が充実している他事業者の取組を参考とする、有効なガイドラインを参考にするなど、「マネましょう」。

特に、バス事業者よりも鉄道事業者の方が、外国語案内が充実している場合が多くありますので、同地域の鉄道事業者の外国語案内を「マネする」ことは、速戦的で有効です。

同地域の他事業者の案内表記を「マネする」ことで、表現や単語が統一され、地域全体のシームレス化が自然と広がります。

公共交通における「日本語の案内」も「外国語の案内」もポイントは同じであることが分かって頂けたと思います。

外国語対応は、観光客・インバウンドのみならず、留学生・在日外国人など日本語を母国語としない方すべてにとって重要となります。また、外国人に分かりやすいということは、結果的に日本人にとっても分かりやすい案内となります。

皆さまの地域でも、「仲間をつくり」、先進事例を「マネする」ことから始めてみてください。

参考:活用できるガイドライン

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