収支率による評価の問題点はなんですか?

担当:福本雅之(合同会社おでかけカンパニー)

行政
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どうして収支率で評価することに問題があるのだろう?

天の声
天の声

収支率のみを用いて評価することは、改善につながらないからです。

 運行経費と運賃収入のデータさえあれば簡単に算出できることから、コミュニティバスをはじめとする地域公共交通施策を評価する際に「収支率」はよく用いられる指標です。

 しかしながら、行政が公共交通サービスを行う理由は、民間企業では成り立たない、すなわち「収支率が悪い」からであることがほとんどです。であるとすれば、収支率は元々悪いわけですから、これを指標として評価をしても、適切な結果を得ることは考えにくいと言えます。

 そもそも評価をする目的は、問題点を洗い出し、改善につなげるためです。その観点から見たときに「収支率」には以下のような問題があります。

収支率は何パーセントが望ましい?

 「コミュニティバスの収支率が●●%と非常に低いんですよ」というような相談を受けることがあります。相談される自治体の担当者は●●%を「悪い」と決めてかかってお話をされることが多いのです。そして収支率の改善(数字の増加)が望ましいと考えていることが多いのです。果たして本当にそうでしょうか?

 中部運輸局の調査によると、2016年度末の時点で、100円運賃のコミュニティバスの8割以上、200円運賃のコミュニティバスの7割以上が収支率20%未満となっています(図-1)。7~8割のコミュニティバスは収支率が20%に達していない訳です。

 コミュニティバスは少ない車両で多くの地区をカバーするために路線長が長くなりがちで、運行経費が高くなる一方で、運賃が100円や200円と低廉に抑えられているものが多いため、収支率が高くなりにくい性質を持っています。

 大切なのは収支率が何パーセントかということではなく、そのサービスを行うのにどれだけの公的負担を行うことが許されるのか、一方で、どのくらいを利用者が運賃で負担すべきなのか、という「公的負担と利用者負担のバランス」についての合意形成を行うことです。

 その際、他の公共サービス、例えば、市営体育館や市立病院などと比較して、コミュニティバスの公的負担と利用者負担のバランスが著しく崩れている場合には、運賃の変更などについても検討すべきでしょう。

図-1 コミュニティバスの収支率(2016年度末時点)
出典:https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/press/pdf/jikou2018032802.pdf

路線同士で収支率を比較をする意味とは?

 地域公共交通会議に出ていると、その自治体が運行するコミュニティバスの路線毎に収支率が算出された資料が出てきて、「●●線は他の路線に比べて収支率が悪い」というような議論がなされる場合があります。

 もちろん、路線毎の収支の状況を把握することは大変重要なことですが、路線間の収支率を比較することにどういう意味があるのかをしっかりと考える必要があります。

 例えば、都心部を走る路線と中山間地を走る路線を比較して収支率が良い、悪いという話をしたとしても、沿線の人口や施設の立地状況が全く異なりますから、条件が不利な地域を走っている路線は悪い結果になってしまいます。

 この結果、収支率の悪い路線を廃止するというようなことになると、中山間地で通学の唯一の手段である路線が廃止候補になるというようなことも生じかねません。こうした路線は収支率は悪くても、地域住民にとっての必要性は高いにも関わらず、です。

 収支率に限りませんが、ある指標を用いて評価を行うということは、それ以外の情報を全て捨ててしまうということに他なりません。

 ある指標では評価が良くない路線であっても、別の指標で見れば評価が良いというようなことはよくあることです(例:収支率は悪いが、沿線住民の利用率は高い、など)。

 路線同士を比較する場合には、こうした多面的な評価軸を持つべきで、収支率だけで比較するようなことは適切とは言えません。

 さらに言うと、外出支援やにぎわい創出を目的として、(採算を度外視して)ある程度低廉な運賃を設定しているということは、その事業の公益性(税金の投入)を暗に重要視している訳で、そのようなコミュニティバスの評価における評価に、もともと度外視しているはずの収支率で評価するのは、指標の使い方としては不適切と言えるでしょう。仮に収支率を問題にするのであれば、事業経費と公益性を勘案した適切な運賃設定も議論されるべきですが、そのような議論がなされている例はあまり多くないと思われます。

活性化再生法の「収支」

 ところで、改正地域公共交通活性化再生法においても、地域公共交通計画の目標について、「地域旅客運送サービスについての利用者の数及び収支その他の国土交通省令で定める定量的な目標を定めるよう努める(第5条第4項)」と定められているため、収支率を評価に用いるべきだと感じる方も多いようですが、法律の文面をよく見ると「収支」と書かれており「収支率」とは書かれていません。「収支」の状況を把握することは大変重要なことですが、そのための指標は「収支率」とは限りませんので、地域や取り組みの状況に応じて適切な指標を使用しましょう(その解説については別の機会に譲ります)。

収支率による評価はサービス改善につながらない

 収支率は、収入を支出で割って算出するわけですから、収入が増えるか、支出が減るかのいずれかによって数値が改善するものです。

 短期的に収支率を良くしようとすると、支出を減らす、すなわち、減便や廃止がもっとも手っ取り早い方法です。そうすると不便になったサービスは、より一層利用されなくなり収入が減少、さらに収支率が悪化するため、支出を減らすためにさらなる減便や廃止を行うという縮小均衡に陥り、最終的には地域から公共交通サービスが消えてしまう、ということになります。これこそが、今まで日本において公共交通が衰退してきた大きな理由です。

 収入を増やすためには、サービスを向上させたり、利用促進を行うなどの「投資」が必要です。つまり利便性向上のための施策を行うためには支出の増加が避けられません。一方で、「投資」の効果が収入増として現れてくるためには、利用者が定着するためにある程度の期間を必要とします。このため、短期的には支出だけが増加してしまい収支率は悪化することが避けられません。

 投資の効果が発現するまでの期間を考慮することなく、一時的な収支率の悪化によって失敗であると判断するようでは、積極的な施策は何も取れなくなってしまいます。サービス向上のための投資の効果を見るためには、ある程度の期間を設けることが必要なのです。

 何らかの投資を行い、一時的に収支率が悪化してしまった場合であっても、収入や利用者に増加傾向が見られる様な場合は成長局面にあると判断すべきであり、収入や利用者の増加が頭打ちとなった時点で、施策の実施前と比べて収支率が好転したかどうかを見て施策の成否の評価を下すべきです。短期的に一時点の収支率のみを見て評価を行うと、こうした中長期的な視点が忘れられがちになります。

 収支率の数字の上下で路線評価をすると、大きな間違いをする可能性があることに十分に注意することが必要です。

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