コミュニティ交通の利用者アンケートやインタビューなどでしっかりと聞いておいた方がよい項目ってなんですか?

土井 勉(一般社団法人グローカル交流推進機構)

担当者
担当者

コミュニティ交通の利用者へのアンケートやインタビュー調査の設問で重要な項目があれば教えて下さい

トリセツの声
トリセツの声

コミュニティ交通の導入で利用者の人たちにどんなインパクトがあったのかを確認することが重要だと思います

1.はじめに

 コミュニティ・バスやオンデマンド交通、自家用有償旅客運送などコミュニティ交通の導入を行った際に、その効果や改善点を把握するために様々なアンケート調査・インタビュー調査などが実施されています。

 これらの調査で主に把握する内容には、どんな人達が利用しているのか(利用者属性)、その人達の外出目的(目的施設)、外出頻度、利用OD、利用時間帯、不満な点などがあります。これらの項目は、利用者に直接聞かないと分からないことです。

 こうした調査を行う際には、様々な既存の調査票等を見て、自分たちの取組にふさわしいものを作成することになると思います。

 ここでは、コミュニティ交通の導入で利用者の人たちにどんなインパクトがあったのかを確認する場合に、抜け落ちることが多いが重要な項目について考えてみたいと思います。

2.アンケートやインタビューで抜け落とさないように確認したい項目

① ○○の目的の移動について、コミュニティ交通を利用する以前の利用交通手段は?

 電車・路線バス・タクシー・自動車・自転車・徒歩など既存の交通手段の選択肢の中では、特に「自動車では自分で運転」と「送迎」を分けて聞きましょう。送迎の負担が減ることはコミュニティ交通導入の重要なテーマになるからです。

 さらに「これまでは行くことができなかった」も選択肢に入れたいと思います。

 この設問を入れることで、コミュニティ交通の導入によって交通行動の変容があったのかどうかの確認になります。

② コミュニティ交通を使った際の移動目的

 買い物や通院だけでなく、娯楽、友人との交流なども選択肢にいれることで、コミュニティ交通の導入が「愉しみの活動」に寄与していることを把握することが可能となります。また、愉しみの活動が増えるように利用促進を考えるヒントを得ることが可能となります。

【バスがあることで実現できる活動】

③ 往復利用かどうか?復路の利用交通手段が異なる場合の確認

 行きはオンデマンド交通、帰りの時間までは事前の予約ができないのでタクシー利用などの場合も多くあります。こうした復路でタクシー利用などがある場合のデータを把握することは、地域公共交通会議などで、タクシー事業者の皆さんとの意見交換の材料を提供できることになる場合もあります。

【長岡京市の調査結果】

 長岡京市では大規模病院の移転に伴い、コミュニティバス(はっぴぃバス)のルートを病院に寄るように変更することになりました。これに対してタクシー利用が減るのではないか、という懸念が表明されたので、病院通院者に対する利用交通手段(行きと帰り)の把握を行いました。その結果、帰りはタクシー利用が微増するという結果が明らかになりました。なお、路線バスは現在よりも減少することが想定されるので、はっぴぃバスと適切な棲み分けを行うことが重要であることも把握することができました(http://www.city.nagaokakyo.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10912/siryou.pdf)。

④ 行動変容について:外出回数の変化、新しい目的地・目的施設への外出の増加

 移動手段がなかったので、潜在化していた移動ニーズが、コミュニティ交通により顕在化することはよくみられることです。これをアンケートやインタビュー調査で把握しましょう。このデータを把握することの意義は、コミュニティ交通の利用者増の確認だけでなく、利用者の人たちにとってのQOL(生活の質)の向上や、まちの賑わいなどにも寄与するものです。そうした効果を把握するための設問になります。

⑤ユニーク・ユーザーの確認

 ユニーク・ユーザーとは多頻度に使ってくれる人たち(ハード・ユーザー)のことです。毎週の利用頻度などを聞くことで、ユニーク・ユーザーは把握することができます。この人達の行動や意見を参考にすることは、サービスを考える上で重要になります。また、この人達が入院などをすると、一気に利用者数が減少するかも知れません。

⑥ コミュニティ交通が仮に廃止になった場合にはどうされますか?

 「他の交通手段に転換する」、「たまに送迎してもらう」、「外出ができなくなる」等を把握することで、コミュニティ交通が誰にために役立っているのかを把握することができます。特に「外出ができなくなる」という回答については、当該のコミュニティ交通の利用者数が少なくても、重要な役割を果たしていることがわかります。仮に廃線などを検討する際には、こうした人々の活動を支えるために、別途の手段を検討することが不可欠になります。

3.まとめ

 コミュニティ交通の評価を利用者に対してアンケートやインタビュー調査を行う際に、しばしば欠落する項目について気になったものを提示しました。

 こうした調査の実施は多くても一年に一度位だと思いますので、できるだけコミュニティ交通を運行する意義を多くの人たちと共有することや、次の展開を想定した調査内容にすることが望ましいと思います。

 また、実際に利用者調査を行う場合は、バスなどに乗り込んで利用者にヒアリングすることも多いかと思います。そうすると数分で回答いただける調査票にするという条件が前提となりますから、多くの設問を入れることは適切ではありません。
 あるいは、利用者に調査票を渡して別途記載いただき、回答を回収する方法もあります。調査の目的と調査内容とのバランスを考えて、ここで示した項目についても適時取捨選択をすることや、設問内容のコンパクト化を工夫することも望ましいことだと考えられます。

 最後に簡単な注意点。調査の前に作成したアンケート・ヒアリングの調査票を上司等に見せると、なんだかよくわからない意見や設問を追加されることがあります。上司等は、善意で考えてくれているのだと思いますが、時として「運賃に対する満足度」などの設問の追加の提案がされたりします。その設問が調査の目的に合致している場合は良いのですが、場合によっては設問の追加が回答者への負担を増やすことになり、それが調査結果の信憑性に影響する可能性があります。アンケート・ヒアリング調査の目的・趣旨を明確に伝えて、こうした設問の追加は最小にするような努力と配慮も必要になります。
 そして、こうした上司等の方々にも「公共交通のトリセツ」を読んでいただくように致しましょう。

 調査目的に対応した設問の設計されることを期待したいと思います。

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