やりっぱなしの実証実験にしないためにはどうしたら良いですか?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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やりっぱなしの実証実験にしないためにはどうしたら良いですか?

天の声
天の声

何を実証したいのかを明確にして目的に沿った実証実験を行うことが大切です。

交通分野における実証実験の現状

 MaaSや自動運転など新たな技術を活用した交通分野における取り組みが注目されています。もっとストレートな表現を使うと、こんなに国の予算が交通分野に割り当てられるのはめずらしいことで、国が進めるスマートモビリティチャレンジでも数多くの実証実験が行われています。

 しかし、これらの実証実験が進む中で、思っていたような成果が出なかったり、実証実験を行ったのは良いけれど、その後に繋がっていないというような指摘が少なからずあります。そういった実証実験では、何を実証したいのかが曖昧になっており、技術を提供している側とそれを受け入れる社会の側で目的が食い違ってしまっていることが多くみられます。

実証実験の種類と目的

 目的が食い違ってしまう原因のひとつは、実証したいこと(明らかにしたいこと)が異なっているのに、実証実験をひとくくりにしてしまっていることが考えられます。本来、実証実験は明らかにしたいことに合わせて、新たに開発された技術が使えるかを実証する「技術実証」とその技術が社会や人々に受け入れられるのかを実証する「社会実証」に分けて考える必要があるのです。

技術実証とは

 大学や企業で新たに開発された技術や製品が社会に出るまでには時間がかかります。良く使われる言葉として「研究室レベルでは・・・」というのがありますが、環境が整えられた研究室の中では使うことができても、実際の現場では様々な予期しないことが起こり上手く動かないというのはよくある話です。これを明らかにするのが技術実証です。

 例えば自動運転バスの技術実証であれば、これまでテストコースで走行していた自動運転車両が、実際に公道上で安全に走行することができるのかを実証することになります。テストコースでシナリオに沿った実験を繰り返していたのに対して、路面の状況が異なり、いつ障害物や対向車が出てくるか分からない公道上で、実際に自動でクルマを制御できるのかを実証することはとても重要な実験です。ということは、極端に言うと100m走行して、技術的にクルマが制御ができていれば実証実験は成功なのです。

社会実証とは

 しかし、これは技術側の視点であり実証実験のフィールドを提供した地域の人たちからすると、自動運転の実証実験だと聞いたので、普段使っているバスが自動運転で走行すると考えているかもしれません。これを明らかにするのが社会実証です。

 技術実証を踏まえて、その技術を社会が受け入れられるかを実証するのですが、受け入れられるために必要な要素は多岐に渡ります。自動運転バスの例ではあれば、今のバスと同じダイヤで走れることが前提となります。その上でバス事業者からすると、運転手がいない状態でも運転手がいるのと同等の安全な走行ができることを求めます。

 同様に利用者からもダイヤ通りの運行や安全性だけでなく、コストもこれまでと同等であることが求められます。普段の生活で使っていたバスが自動運転になったからといって、運賃が上がることを望む人はいないでしょう。つまり社会実証では技術実証の内容に加えて、最低限、今までと同じように使えなければ実証実験は成功とならないのです。

 技術側からすれば「コストと走行環境の制約がないのであれば自動でクルマを走らせることができる」と考えており、社会側は「コストや走行環境は現状と変わらず自動でクルマがが走る」と考えているというところに食い違いのポイントがあるのです。

 もう一つ気を付けなければ行けないのは、社会が受け入れる要素は多岐に渡る上に、受け入れるかどうかの基準も人によって異なるところです。自動運転っていつ実用化するの?の事例でも示したように、現状の技術ではすぐには受け入れられないけれど、地域が受け入れる条件を緩めることができれば、受け入れることができることもあります。

実証実験は必要です

 しかし、実証実験そのものはとても大切です。技術実証を行う場所がなければ新しい技術は生まれませんし、社会実証を行う場所がなければ新しい技術で地域が良くなることもありません。技術開発をしている立場からすると自分たちの技術を実証してもらえる地域を求めているのです。

 公共交通の分野においては、それらを取り巻く周辺の環境は地域によって様々であり、利用者の状況も年々変わっていきます。そういった多様な状況に合わせて地域に最適なものを選ぶためには、実証実験を重ねて地域に合わせてカスタマイズしていくことが必要不可欠です。実証実験で何を明らかにしたいのかという問題意識と、何を持って地域が受け入れるのかという基準を、関係者間で共有できれば実証実験はきっと意味のあるものになると考えられます。

 注目されているがゆえに、国による様々な実証試験のための予算が作られています。しかし、これを獲得することを目的にして実証実験を行うのは本末転倒です。実証実験の計画を立てる前に、地域の課題をしっかり把握して、それを改善するための実証実験を行いましょう。


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