地域公共交通計画と立地適正化計画との関係はどのように考えるべきですか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

隣の課が立地適正化計画を作っているけど、地域公共交通計画とどういう関係があるのだろう?

街の将来像の中での公共交通ネットワークの役割を考えましょう

 コンパクト・プラス・ネットワークのうち、コンパクトシティの実現のための計画が立地適正化計画で、公共交通ネットワークの改善のための計画が地域公共交通計画です。コンパクトシティの内部には、様々な都市機能を高密度に配置することで歩いて暮らせる街を実現し、これらを利便性の高い公共交通ネットワークでつなぐことで、暮らしやすく、環境にも優しい国土を目指すというのが現在の日本における都市計画・交通計画の方向性です。

立地適正化計画とは

 第二次大戦後、高度経済成長の中で人口増加を続けてきた日本においては、市街地が郊外に拡大し続けてきました。この過程において市街地の面積は拡大する一方、人口密度は減少してしまいました。特に、地価の高い中心市街地において夜間人口(=居住者数)が流出する一方で、元々農村だった場所に開発の波が押し寄せました。その結果、中心市街地に空き家が増加する反面、郊外部に農地と住宅地が混在するといった状況となっています。

 中心市街地では古くから道路や上下水道といったインフラが多く整備されているにも関わらず、それを利用する居住者が減少し、郊外部では居住者の増加によって新たにインフラの整備が必要となり、インフラの使い方が非効率となっています。こうしたインフラを維持するために莫大なコストが必要ですが、今後、人口が減少する日本においては、一人一人の負担が大きく膨れ上がることになります。

 これを解消するためには、広がりすぎた市街地を将来の人口規模に合った大きさに縮小することが必要です。将来にわたって「残す」地区を決める計画が立地適正化計画です。

 立地適正化計画では、医療・福祉・商業等の生活サービスの立地を誘導する「都市機能誘導区域」と、人口減少下においても居住人口を誘導し、将来にわたって人口密度を維持しつづける「居住誘導区域」の2つの区域を定めます。立地適正化計画の計画期間は20年ですので、大まかに言って、都市機能誘導区域が20年以上後にも中心市街地であり続ける区域を、居住誘導区域が20年以上後にも住宅地であり続ける区域を定めるものと言えます。

地域公共交通計画との関係

 立地適正化計画と地域公共交通計画の関係は、よく「車の両輪」に例えられます。国土交通省においても「コンパクト・プラス・ネットワーク」のため、上記2つの計画づくりを支援することとされており、あわせて、両計画が互いに連携することで、都市に必要な機能及び居住の集約及び集約された地域における公共交通の充実という好循環を実現することが期待されています。

出典:持続可能な運送サービスの提供の確保に資する取組を推進するための地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律 補足説明資料(国土交通省HP)

 それほど両者は密接な関係にありますが、地域公共交通政策に比べて、土地利用の変更などを意図する都市政策では事業に要する期間が長いことから、両者を同一のタイムスパンで考えることはできません。

 実際、現在策定されている地域公共交通計画では、計画期間が5年程度のものが一般的です。一方、立地適正化計画の計画期間は20年です。両者の施策は連携して行われることが必要ですが、一体的で密接不可分というわけではないことには留意しておきましょう。

 つまり、鉄軌道を除くと、交通施策の対象はバスやタクシーといった柔軟に見直しができるものであるため、長期にわたって都市が変化していく中で、交通は適宜その変化に対応しつつ、立地を誘導すべき地区においては公共交通のサービスレベルを高めるなど、都市のあるべき姿へと誘導をしていく役割が求められます。そのためには以下のような視点が必要です。

都市コンパクト化施策の促進剤としての公共交通施策

 現在、自治体による地域公共交通施策はコミュニティバスやオンデマンド交通の運行、利用促進策やモビリティ・マネジメントの実施といったソフト施策が中心となっています。

 しかし、2000年代以前には、「都市新バスシステム」や「オムニバスタウン」といった取り組みが行われていました。そこでは、バスレーンやハイグレードバス停の整備、PTPS(公共車両優先システム)の導入といったハード施策が大きな割合を占めていました。

 バスを事業対象とする場合、ソフト施策は費用が安く、実施が容易であるというメリットがある反面、バスの弱点である定時性・速達性の改善には結びつきにくいというデメリットが存在します。

 立地適正化計画によって市街地の魅力が向上し、人口集積が進んだとしても、現在のような自家用車を中心としたライフスタイルが変化しなければ、渋滞の激化が予想されますし、それではコンパクトシティのメリットは享受できません。

 立地を集約すべき地域においては、バス路線の充実や増便と言ったソフト面での利便性向上策だけでなく、そうしたソフトを支えるために、バスレーンの整備やPTPSの導入、パークアンドライド用のフリンジパーキングやバスターミナルの整備といったハード施策を推進し、都市の基幹公共交通軸を形成することが望まれます。都市の「軸」が明確になることによって、立地の集約がさらに進むと考えられます。

都市内における端末移動手段の充実

 これまで、コンパクトシティ内での移動は徒歩という暗黙の了解がありましたが、高齢化が進む今後の社会おいては徒歩だけに頼ることでは不十分で、いわゆる「ラストワンマイル」の移動手段が求められるでしょう。

 具体的には、電動自転車やパーソナルモビリティビークル(PMV)のシェアリングサービス、低速電動バスによる街区内移動サービスといった「歩行支援サービス」を都市内において実装し、各街区と鉄道駅やバス停を結ぶことで、基幹公共交通軸へのアクセスを担う必要があります。

 これらのサービスの利用料金は、鉄道やバスと一体となったパッケージとして提供されるべきでしょう。つまり、鉄道やバスから乗り継いでこうしたサービスを利用する場合には、無償で利用できたり、割引がなされたりすることが望ましいと言えます。

メリハリのある計画を

 コンパクトプラスネットワークの都市や交通は一言で言えば、都市構造や交通ネットワークに「メリハリ」をつけることだと言えます。都市も交通も多くの人が集まれば、効率を高めることができますし、効率が高まれば利便性を高めることもできます。

 人口が減少するこれからの日本では、残念ながら全ての地区や交通網を維持し続けることはできないでしょう。とすれば、生活の質を保つために維持すべき都市や交通のサービスは何であるのかを考え、それが可能となるように地区や路線を選んで、資源を集中するということが、立地適正化計画や地域公共交通計画の検討の中でも意識されるべきでしょう。

 人々の移動を支える公共交通ネットワークの充実を通じて、土地利用計画などの都市政策を誘導し、コンパクトなまちづくりにつながっていくという方向感を持つことが、これからの都市政策に望まれていることではないでしょうか。

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