バス路線を見直すとき、何に気を付けて検討すればいいの?

担当:塩士 圭介(日本海コンサルタント)

 地域公共交通の中心を担う路線バスは、住民や来訪者などのニーズに合わせて、柔軟な路線設定及びダイヤ設定が可能です。データや利用者の声などを的確に把握した上で、必要な見直しを行うことは大いに推奨されるべきでありますが、一方で、どうやって路線やダイヤを見直しすれば良いのか、どの程度の規模で見直しをすべきなのか、悩みを抱える実務担当者も多いと想像します。

 ここでは、バス事業者のダイヤ編成担当者やコミュニティバスの運営に携わる自治体担当者が、バス路線を再編・見直しする際に注意したいことについて、簡単にお話します。

何のために見直すの?

 そもそも、バス路線を見直さなければならない理由とは何でしょうか?

 利用者に言われたから?経営層に言われたから?自分で課題を見つけたから?定期的なダイヤ改正のタイミングで・・・理由は様々だと思いますが、バス路線の見直しにはメリットもあればデメリットも存在します。そのことを念頭に入れ、下記の留意点に注意しながら検討してみましょう。

経営改善のための見直し

 利用が少なかったり、利用の割にコストがかかっている路線を何とかしたい、という、経営課題への対応のための見直しが該当します。

 一般的に、利用の拡大(≒収入増)とコストの軽減は、トレードオフの関係にあるため、見直しによって得られる効果と課題を整理した上で、路線見直しの必要性が客観的に判断できるようにすることが望ましいです。利用者の増加と運行コストの関係性を簡単に示すと下記のようになります。

表1 路線再編・見直しによる効果

 利用者
増加減少
運行
コスト
削減◎これが出来れば文句なし!(ですが、こうした幸せな例は多くないと思われます。。。)○利用者の少ない便・区間をやむを得ずカットすることで、運行の効率化が期待できます。(ケース1)
増大○利用が期待出来るエリアに延伸を行うことで、多少コストが増大しても利用を見込むことによる収支改善が期待できます。(ケース2)×見直しのゴールとしてはあり得ないパターン。

 上記で悩みどころが、(ケース1)(ケース2)と記した部分で、改善効果が図りにくい(すなわち再編・見直しをすべきか悩ましい)部分といえます。例えば下記のケースが該当します。

ケース1:利用者の少ない便・区間・路線をカットし収益を改善

 長大なルートや、数多くのバス停を経由し時間がかかりすぎる系統は、乗車時間が長くな りがちで利便性(速達性)が損なわれるほか、運転士の勤務時間も長くなりがちです。

 たとえば、バス停ごとの乗降者数を集計してみると、例えば枝線(分岐線) の部分でバス停乗降者数が少ない場合は、その部分を短絡化(ショ ートカット)して効率化を検討することが可能です。また、バス停間の通過人員(バス停ごと に乗車人員・降車人員を差し引きした結果)を算出してみると、通過人員が極めて少ない区間は系統短縮やルート見直しなどが視野に入ります。

 仮に、(これは極端な例ですが)利用の少ない区間・バス停への迂回などで片道55分かかる路線を短絡化し、片道50分以内に収めることができれば、乗車時間の短縮につながるばかりではなく、乗務員の休憩時間も含めて1時間間隔のパターンダイヤで利便性の向上を図ることも出来ます。

 このとき、利用のカットによる減収予想額と、運行カットによる収支改善額を比較することが重要であり、その際に必要なデータとして、「バス停別利用者数」「通過人員」など(なければ必要に応じて調査実施が必要となります。詳しい調査方法については「公共交通の利用実態はどのように調査すれば良いですか?」を参照ください)を利用することで「データに基づく改善」が必要です。

ケース2:新しい施設・住宅地の開業に合わせた経由地の見直し(延伸)

 上記ケース1は、どちらかというと「守り」の経営といえますが、ケース1ばかりを行っていると、バス路線は「縮小均衡」にしかならず、地域の公共交通を持続的に維持することが難しくなっていきます。。

 その点、ケース2は「攻め」の姿勢で積極的に利用者を取りに行くパターンであり、利用者のニーズの変化を機敏にかぎとり、路線設定・ダイヤ設定に反映させることが重要と言えます。

 新興住宅地の人口が見込まれる地域への延伸、病院や商業施設の開業に合わせたルートの見直しが考えられます。

 注意したいのは、こうした新規需要はどの程度の獲得が見込めるかの推計が難しいことと、経路変更により増加したコストを吸収できるだけの利用増が見込めるか、が一つの判断基準となるでしょう。コスト増分は試算できると思われるため、コスト増に見合う利用増が、1便あたり(または1人あたり)何人以上を期待するか、で、その見直しの妥当性をチェックするという姿勢が重要です。

 また、推計が難しいからこそ、運行が始まった後に実際の利用がどのようであったか、データを継続的に取得しながら利用状況を注視することが重要です。

バス路線見直しのデメリット~現場で困るのは誰?

 利用獲得のため、または経営改善のためにバス路線を見直す際、ややもすると「見直しありき」の視点で物事を見がちですが、見直しによるデメリットを見逃しがちなことには留意すべきです。例えば、ある地域(ある人)からの要望で、ダイヤ・ルートを見直して欲しいという意見が出された場合、その意見を反映することによって逆に不利益を被る人がいることにも配慮すべきです。

 特に、現在便利に使っている利用者は不満の声を挙げないため、往々にして実務担当者には届かない場面があり、見直しの声に押されて経路・ダイヤを見直したは良いが、元々の利用者が不便になってしまい、逆に「元に戻して欲しい」との声が殺到して、再度元に戻すという例が考えられます。

 また、こうした頻繁な見直しは、これまで生活サイクルの中で定着していた利用のパターンを崩しかねず、利用が離れてしまうことも考えられます。ニーズに合わせた柔軟な見直しは、鉄道にはないバス交通のメリットではありますが、頻繁かつ複雑な見直しによって、分かりにくさを助長するようでは、バス路線見直しの効果も半減です。

データと現場 どっちも大事!

 先ほど「データに基づく改善」が重要であることを述べましたが、「データ【だけ】を見る」と、思わぬ落とし穴にはまります。データは日々の利用を客観的に見ることはできますが、どういう人が実際に乗っているか、どういう使われ方をしているか、現場を見ることで初めて得られる「気づき」もあると思われます。

 データで見る客観性ととともに、現場を知ることによって「血の通ったダイヤ見直し」となるよう心がけたいものです。その点、毎日利用者と接している乗務員さんの声は極めて重要で、定期的にヒアリングや乗務員アンケートなどで、ルート・ダイヤ改正に向けたヒントを得ることが重要と思われます。

参考文献:バスデータ活用大百科 ~バス実態調査とデータ活用方法が丸わかり~(R01年度、中部運輸局)

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