公共交通の利用促進に取り組むために その2需要はどこにあるのか?

一般社団法人グローカル交流推進機構 土井 勉

担当者の皆様
担当者の皆様

利用促進をしたいと考えていますが,どこから手をつけたら良いのでしょうか?

トリセツくん
トリセツくん

今移動している人たち(あるいは,移動が潜在化している人たち)の状況に基づいて,公共交通を使ってもらうために何をしたらいいのかを考えましょう.

人口減少だけど利用促進は可能なのだろうか?

 兵庫県加西市を例にとって考えてみましょう。

 加西市は兵庫県の内陸部にある人口約4万人(65歳以上の高齢者率が30%程度)のまちです。市内には北条鉄道という3セクの電車や路線バス、そしてコミュニティバスがあるものの、多くの人々は自動車で外出を行い、総交通量の8割の代表交通手段が自動車となっています。

 図-1は加西市の人口動向を示しています。1985年の5.2万人をピークとして、近年は人口減少が続いています。

図-1 加西市の人口動向1)

 バスや鉄道などの地域公共交通は、沿線人口の動向と大きく関係します。しかし、人口が減少すると、公共交通の利用者の減少は起こることなのでしょうか?

 次に加西市のコミュニティバスの利用者数の近年の動向に注目して下さい(図-2)。

図-2 加西市のコミュニティバス等乗車人員の推移2)

 これより、コミュニティバス等乗車人員は2010年の13,192人/年が最も少なく、近年はU字回復していることがわかります。人口が減少しても、コミュニティバス等の利用者数は増加しているのです。

 この増加の背景には、図-2にも記載されていますが、バスのダイヤ改正・路線改正・無料乗車券の導入(75歳以上や子育て世代対象)など、公共交通の様々なサービスの改善に取り組んでいることがあります。既存のコミュニティバス等の状況に対して、常に改善・改良などの工夫を重ねることで、利用促進をすることができたのです。

 なお、加西市には前述のように、コミュニティバス以外に北条鉄道、路線バス(神姫バス)があります。これらは加西市に係わる広域交通を受け持つとともに、市内でも幹線的な機能を担っています。これらの幹線的な公共交通については、図-2に示すようなU字回復には残念ながらなっていません。ただ、路線バスについては、沿線に立地する工業団地の従業員の人たちの利用が増えることなどが影響して利用者増加になっています。これは従業員の数が増加しただけでなく、免許を持たない若い人たちが公共交通で通勤することも背景にあると考えられます。

利用促進の取組を考える

 利用促進については図-3のような取組があると考えられます。

図-3 利用促進の取組

 転換を進める

 利用促進を取り組む際に、想定する対象が、現在使っている交通手段(自転車や自動車)から公共交通への転換を図るものか、あるいは郊外のショッピングセンターからまちなかの商店街等に行き先を転換してもらうことを意図するのかで、提供するサービスも、あるいは情報提供の仕方も変わります。

 利用交通手段の転換で期待できるものに、「送迎」があります。適切な公共交通のサービスを提供することで、送迎からの転換を図ることができます。これは送迎を担うご家族の負担軽減になることもあり、重要な施策になる場合があります。

 目的地の転換については、公共交通の路線やネットワークを考える際に主要な病院や商店街を外さないことが重要です。

 そして、これら転換の施策を実施する際には、人々の行動変容を促すMM(モビリティ・マネジメント)の施策について取り組むことが効果的です。

 創造する

 自分で自動車を運転して移動が困難な人たちは、そもそも外出が少なくなる傾向があります(西堀・土井ら:利用実態と住民意識からみた住民主体の地域公共交通が果たす役割,都市計画学会,2017)。それに対して一人でも出かけることができるようにバス等の公共交通を導入すると、これまで潜在化していた外出が顕在化することが確認されています(土井・西堀他:「愉しみの活動」に対して生活に身近な「都市の装置」が果たす役割;活動内容と会話に着目して、「Co*Design5」、pp.45-64,大阪大学COデザインセンター)。

 こうした潜在化した外出需要を顕在化させることは、公共交通のお客さんが増えるだけでなく、外出を行う人たちにとっても外の空気を吸い、人々と会話をすることで精神的にも身体的にも健康に効果があることが期待できます。また、人々がまちに来ることで賑わいが増えることにもなります。公共交通がまちの賑わいや人々のライフスタイルの充実を促進することになります。

 さらに、域外からお客さんを迎えるために、観光やイベントにおける公共交通が果たす役割も重要なものがあります。新たな利用者を創り出すという意味では、観光なども利用促進の中で創造に分類されるものです。

 ここで、観光などでは乗り物に乗ることが目的になること以外は、見る、食べる、遊ぶなど観光の目的が別途あり、そこに到達するための移動手段として公共交通があります。観光の目的に適切に対応する公共交通サービスの整備を行い、その情報提供を適切に行うことで公共交通への利用を促し、集客を進めることが期待されます。さらに、自動車からの転換を促すことで、観光シーズンの道路の混雑緩和にも寄与することが期待されます。

 利用促進の対象となる人たちはどこにいる

 図-4に公共交通の利用者と非利用者、そして「現在の利用者の周辺にいる非利用者」の概念を整理してみました。

図-4 公共交通の利用促進の対象となる人たち

 往々にして、私たちは公共交通の利用者と非利用者の2分類で考えることが多いのです。でも、実際に現地で様々な人々と意見交換をすると、現在の利用者と似た条件にある非利用者がおられることに気づきます。公共交通の行き先案内やダイヤの情報を提供すると、この人達は、新たに利用者になってもらえる場合があります。こうした人達が利用者になることで、さらに非利用者である仲間を誘って公共交通で外出してもらうことも期待ができそうです。

 現状の非利用者を固定して考えずに、枠組みを拡大することを考えることで利用促進のヒントを得ることができます。

 利用促進と公共交通のサービス

 

 公共交通のサービスについては安全と接遇は当然として重要なものが6つある、という記事を「公共交通のサービスには何がありますか?」で詳しく記載しています(図-5)。

図-5 公共交通の6つのサービス

 こちらの記を参考にして、利用促進に役立つ公共交通のサービスを検討し、現在の公共交通のサービスを見直すヒントにしていただければと思います。

 図-2でも紹介しましたが、サービス改善を行うことで利用が増加します。先ずはどのようなサービスを改善していくのか、を地域の皆さんも交えて取り組んでいくことが期待されます。

■参考資料

1)加西市:「加西市地域公共交通網形成計画」、2018年3月、https://www.city.kasai.hyogo.jp/uploaded/attachment/7368.pdf

2)同上

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