公共交通の利用を促進するために その3:集客・観光・イベントとの関係の基礎の基礎

多くの私達
多くの私達

Q:観光やイベントや公共交通の利用促進の切り札になりますか?

トリセツおじさん
トリセツおじさん

A:移動を支えることで、集客事業としての観光やイベントの取組に寄与することはありますが、十分に意義・役割を認識しておくことが望ましいと思います。

一般社団法人グローカル交流推進機構 土井 勉

はじめに

 バス・鉄道など公共交通は観光やイベントなどの集客と関係が深い交通手段です。

 実際には、①観光地やイベントなどの開催地への交通手段、②観光地内での移動や周遊に活用される交通手段、③乗車すること自身が観光などの目的となる場合などがあります。この3つの分類も、それぞれ独立したものではなく、①と③などがセットになっている場合も多くあります。

 ここでは基礎の基礎ということで、これらの分類を念頭に置きながら観光やイベントと公共交通について考えていきたいと思います。

もともと公共交通は観光地や集客施設へのアクセスの役割があった

 1910年に開業した箕面有馬電気軌道(現在の阪急電鉄)の実質的な経営者であった小林一三(1873年~1957年)は大阪を起点にした路線を敷設し、終点にあたる宝塚には集客施設として宝塚新温泉を開設しました。この魅力をさらに高めるために宝塚歌劇(19や宝塚ファミリーランド(2003年に閉園)など様々な活動に取り組みました。これらは大阪からの鉄道旅客の誘致を行い、鉄道経営に寄与することを狙ったものでした。これらの明るくモダンな集客施設は、沿線地域のイメージの向上にも寄与して、新しく分譲を始めた住宅地の価値を高めることにもなりました。

 同様に阪神電鉄の阪神甲子園球場(1924年)の開設のように全国の鉄道会社によって様々な集客施設が整備されていきました。こうした施設を活用した様々なイベントの開催などの実施により旅客誘致に取り組んできました。

 こうした事例だけでなく、鉄道・バスなどの公共交通では伊勢神宮への参拝客の利用を見込んで設立された「参宮急行電鉄」など有名な寺社仏閣・名勝・お祭りへのアクセスを担うことを目的として設立・運行されたものも多くありました。

 さらに沿線の行楽地を巡るハイキングなどのイベントなども公共交通の利用促進活動として実施されてきました。

現代においても公共交通と観光による集客は高い親和性

 JR九州で運行されている様々な特急の中でも、有名なクルーズトレイン「ななつ星」は訪問先の観光地の魅力だけでなく、移動する車内での体験も重要な魅力として人気を博しています。JR九州では他にも「ゆふいんの森」「指宿のたまて箱」などユニークな特急が数多く運行されていて、鉄道に乗って移動する愉しみを提供することで、利用促進に寄与しています。こうした取り組みは全国に広がり、近鉄「あおによし」、JR西日本「TWILIGHT EXPRESS瑞風」、JR東日本「四季島」など乗車体験を重視した特急電車の運行が行われるようになってきました。

 これらとは別に、廃線敷を活用した嵯峨野観光鉄道・トロッコ列車のように、新たな装いで観光目的に特化した鉄道も人気があります。SLが運行されていることで有名な静岡県の大井川鐵道も観光に特化した鉄道ということができると思います。

 最近流行語になった感があるMaaSについても、観光地へのアクセスや、観光地内での周遊について、多様な公共交通をシームレスに一体で提供する事例が増えてきました。例えば、伊豆において、東急・JR東日本・伊豆急など異なる交通事業者が連携して実施したきた「Izuko」など観光型MaaSの実証実験などが増加してきました。

 こうした非日常な体験を提供する観光だけでなく、比較的気軽に観光を行うことを支える仕組みとして「大阪周遊パス」があります。

 これは大阪市の地下鉄・バスを中心にした一日あるいは二日間の乗り放題チケットに加えて、大阪城をはじめとする40ヶ所以上の観光スポットに無料で入場ができるものです(一日券2,500円)。このお得感が効果を発揮して、年間150万枚突破(コロナ前の2019年度)の販売となり、鉄道・バスの利用促進に効果を発揮しています。

 人口減少の時代を考えると、地域外から観光客を受け入れることでまちの賑わいを振興することは、都市経営としても重要な施策になると思います。

 だから、多くの市町村で観光や集客ビジネスに力が入り、そのアクセス手段として地域外の人たちにとっても使いやすい公共交通、わかりやすい情報提供が公共交通に期待されています。

そして公共交通の方でも、減少する沿線人口を利用者とするだけでなく、地域外からの来訪者の利用を増やすことで経営を支えることに期待を託しています。

でも、注意してほしいこと-観光・イベントなどの利用促進策のアイデアは有効?

 上記のように観光地や集客施設・イベントとセットになって、そのアクセスを支えるための公共交通の役割は重要ですし、その結果、利用者が増えることも利用促進の重要な方法です。

 その一方で、注意して欲しいことがあります。

 地域の住民や行政の人たちなどと公共交通の利用促進についてのワークショップなどを行うと、「イベント列車の運行」「バス停留所に足湯」「沿線の雑木林をライトアップ」「花火の打ち上げ」等のアイデアが出てくることがあります。あるいは、首長さんたちなどから、観光集客のためにNHKの大河ドラマの誘致を熱心に働きかけるなどの意見が出てくることもあります。誘致を進めることで地域外からの公共交通利用者を増やしたいということです。

 こうした発想・意見を聴く機会は少なくありません。

 もちろん、利用促進に効果がある場合もありますが、多くの場合、これらはアイデアだけで終わることになります。アイデアを実施する際の人件費を含めた費用の概算を出すと、確実に費用対効果が悪いものが多いからです。

 時として「日本酒電車」などのイベントも集客の取り組みとして、人気のある場合があります。イベントを実施する公共交通に対して親しみを持ってもらう活動としては意味があると思います。しかし、イベント開催までの準備や当日の運営にかかる人件費などの費用を算定すると、収支が賄えるわけではないようです。利用促進というよりも、仲間づくりや公共交通に関心を持ってもらう活動という面が強いのだと思います。

 観光・イベントを用いて公共交通の利用促進を図る際には、いろんなアイデアを募ることにも意味があります。ただ、アイデア倒れにならないために、実際に期待できる効果があるのか、そのために投入する人材や費用の把握、さらにもっと別の効果的な方法はないのかなどについてもしっかりと検討をしておくことで、実効性のある利用促進のプログラムができると考えられます。

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