地域公共交通のクロスセクター効果とはなんですか?(一部更新)

担当:土井 勉(一般社法人グローカル交流推進機構 理事長)

行政など
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地域公共交通のクロスセクター効果(CSE)って聞いたことがあるけど、よくわからない。何のこと?

それはね…
それはね…

地域公共交通が人々の移動を支えることで、人々の健康維持や通学先選択などの活動に役立っていることを定量的に評価する方法の一つなのです。

簡単に言うと

 地域公共交通の評価の方法の一つです。これまでは利用者数や収支などで評価をすることが多かったのですが、「赤字」の地域公共交通を補助金などの公的資金で支える意味を定量的に評価するために開発されました。これまで公共交通を支える意義として、人々の外出機会を増やすことになり、みんな元気になる、というような定性的な説明が行われてきました。これもその通りなのですが、例えばコミュニティ・バスの維持に3,000万円/年かかることに対して、定性的な説明だけでは説得力が充分ではありません。そこで公共交通の役割を定量的に把握することが望まれています。
 ここでクロスセクターとは「多様な行政分野」のことを指し、地域公共交通が人々の移動を支えることで、行政コストの軽減に資する効果を定量的に算定するものがクロスセクター効果(Cross Sector Effects=CSEと略)です。

 最近は、全国各地の公共交通計画や路線評価の際にCSE分析を活用されている事例が増えてきました。また、国交省などの資料にも多く紹介をいただいています。

 さらに、2022年6月27日の日本経済新聞夕刊「白書にみる地域再生・交通政策編㊤」でもクロスセクター効果について「データによる冷静な議論を」として、丁寧な説明がされています。こうした記事も参考にして下さい。

図-1 公共交通政策と関係する行政分野の概念(近畿運輸局の資料より)

CSEの対象は行政分野だけなのですか?

 答えから先に言うと、その通り、行政分野に対する費用をどれ位抑制することに役立っているのかを把握するので、CSEの分析対象は移動に関する行政分野を対象にしています。
 もちろん、公共交通が果たす役割には、先にも述べたように外出を支えることで人々の生活の質を高めたり、健康増進の機能、さらに、行政部門においても医療費や福祉関連予算の抑制効果があることは間違いありません。
 ただ、現状では、医療費と福祉関連の一部の抑制効果を除くと、個人の生活の分野、家計、企業会計等への効果を適切に算出することはまだ模索の状況です。したがって、我々としても行政分野の移動コストの抑制効果以外のものの算出についてもチャレンジをしていきたいと考えています。

地域公共交通のCSEの算定方法の概要

地域公共交通のCSE(図-2の③)は、当該する地域公共交通を仮に廃止した時に、追加的に必要となる多様な行政部門の分野別代替費用①と、運行に関して行政が負担している財政支出②を比較することで把握できる地域公共交通の多面的な効果のことになります。

図-2 クロスセクター効果の概念

①-②=③>0であれば、地域公共交通への補助金などは「交通分野における単なる赤字補填」ではなく、「地域を支える効率的な支出」であると定量的に言うことができます

ここで、分野別代替費用とは、地域公共交通が廃止になった際に通学や通院で利用している人たちに対してスクールバスや病院送迎バスなどの施策を実施して移動をサポートする費用のことです。

 分野別代替費用の算定については、行政によって様々な項目になると考えられます。ここでは表-1に標準的な分野別代替費用項目を示しておきます。これをベースに地域の実情に合うように、項目の追加や削除をすれば良いと思います。

表-1 地域公共交通が廃止された場合に必要となる分野別代替費用項目

 なお、全ての路線などは、CSEが正の値になるとは限りません。負の値になることもあります。その場合は、提供されている地域公共交通のサービス内容や利用者数などを精査することが望ましいことと、場合によって対象とする地域公共交通の規模が小さいためにCSEによる効果の確認に適さないことがあるかも知れません。こうした点には、今後の研究をさらに積み重ねていきたいと思います。

CSEの計算結果の紹介

 コミュニティバスのCSE算定(兵庫県福崎町)

 福崎町ではコミュニティバス(サルビア号)の運行に対して町から年間約1,690万円の補助金が支出されています。これに対して今回算定した5つの分野の代替費用の合計金額は年間約2,240万円であり、CSEの額は年間約550万円と算定されます。したがって現状の補助金は「赤字補填」ではなく「地域を支えるための効率的な支出」ということができます。

表-2 福崎町のコミュニティバス(サルビア号)のCSE

 この他、西宮市のコミュニティバスや滋賀県の近江鉄道など政策判断の材料としてクロスセクター効果を算出する事例も増えてきました。

CSEと関係部署との意見交換の重要性

 地域公共交通が多様な行政分野に果たす効果を定量的に把握することを目的として算定方法を考えてきたCSEですが、表-1にもあるように数値化が困難なものもあります。

 そして、数値化できないものにも重要な地域公共交通の役割・効果が多くあります。こうしたことを把握するためにも、交通関係だけでなく、福祉や防災・総務など多様な部門を担当する人たちからの意見を聴く機会を設定することも重要なことです。

 例えば、N市では、地域公共交通がなくなることについて多様な部署から、「通院できなくなることによる救急車要請の増加」「子育てセミナーの受講が困難になる人が増える」「通学のための下宿」「選挙の際に投票所に行けない人」等のサポートをどうするのかについて意見が出てきました。こうした定量化できない様々な意見も踏まえて、地域公共交通の施策を組み立ていくことが期待されています。

■参考資料

・CSEについての研究的な論文:西村・東・土井・喜多:クロスセクター効果で測る地域公共交通の定量的な価値」、土木学会論文集2019

https://12cd426d-c73c-48c4-9a25-87c2042246c7.filesusr.com/ugd/2474f3_ff51f4e8d5134105aff2d419d123da9d.pdf

・国土交通省近畿運輸局:「地域公共交通 赤字=廃止でいいの?」。CSEについて丁寧に解説されています。

http://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/cross_sector_leaflet.pdf

・令和2年度「交通政策白書」でもp.161に,クロスセクター効果が紹介されています。こちらも参考にして下さい。

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