公共交通の利用促進に取り組むために その4:人口減少/自動車型社会でも公共交通の利用が増加した事例

土井 勉(一般社団法人グローカル交流推進機構)

好青年
好青年

人口減少や、自動車の利用が多くて、公共交通の利用者数は減少するので、利用促進をやっても無駄かなあと思うときがあります。本当のところはどうなのかなあ?

天の声
天の声

思い込みよりも、丁寧にデータを見る方が利用促進のヒントをつかむことができますよ。

はじめに

 今、話題の国土交通省「鉄道事業と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の提言書でも、「人口減少やモータリゼーションの進行により鉄道利用が減少」という記述が目につきます。丁寧に提言書を読むと、近年は漸増傾向にある…という記述もありますが。

 さらに、各地の地域公共交通計画においても公共交通の利用減少は人口減少とモータリゼーションの進行に起因すると書かれているものが少なくありません。

 確かに、人口減少もモータリゼーションの進行も公共交通の利用減少の重要な背景ではあります。

 しかし、実は、人口が減少している中でバスや鉄道等の公共交通の利用者数が増加している例も少なくありません。

 というのも、そもそも大都市部以外では、総人口に対して公共交通の利用者の割合は少ないため、人口の変化による大きな影響を受けることは少ないのです。公共交通の利用者数については、その公共交通を必要とする底堅い利用者(例えば、通学の高校生などが典型例)の存在や、サービス(公共交通が提供するサービスについては、トリセツ「公共交通が提供する6つのサービスとは何でしょうか?」を参考にして下さい)の改善によって顕在化する需要などがあることを覚えておきましょう。

 人口が減少しているから、あるいは自動車型の地域だから公共交通の利用は減少するのが当たり前だと無力感におちいる必要はありません。

 ここでは、兵庫県の内陸部に位置する自動車型社会である加西市を対象に、人口は減少傾向にあるが、公共交通の利用者数が増加した事例について考えてみましょう。

 ご注意いただきたいことは、事例をそのまま自分たちの地域でも実施することは避けて欲しいということです。事例は活動のヒントにはなりますが、そのヒントを元に自分たちの地域に相応しい仕組みを創り上げていただければと思います。

 なお、本記事の一部は「公共交通の利用促進に取り組むために その2需要はどこにあるのか?」と重複していることをご承知下さい。

加西市の概況と人口の推移

 兵庫県加西市は人口約4.5万人、兵庫県のほぼ中央に位置する農業と工業が盛んなまちで、市立病院や県立北条高校などもあります。公共交通については鉄道として北条鉄道があり、終点の粟生駅でJR加古川線・神戸電鉄と接続されています。バスについては、中国自動車道を走行する高速バス(神姫バス、西日本JRバス)、路線バスとして神姫バスが運行されています。また、コミュニティバスとして”ねっぴー号”や”はっぴーバス”などが運行され、最近は地域主体型交通の導入も進んでいます。またタクシー会社は1社あります。この規模のまちとしては、多くの公共交通に恵まれた地域ということができます。

図-1 加西市の位置(加西市公共交通活性化協議会資料より)

 しかし、外出時に利用する交通手段については、なんと80%が自動車となっています(図-2)。誰もが自動車を使って生活をしているまちだと考えることができます。

138,200トリップ

図-2 代表交通手段別分担率(2010年近畿圏パーソントリップ調査結果:加西市資料より)

 また、代表交通手段別分担率として鉄道が2%、バスが1%ですから、全国に多くある、典型的な自動車利用で外出が行われているまちであると言うことができます。

 この加西市で「クルマを気軽に利用できない人」はどのくらいいるでしょうか?

 上と同じ2010年のパーソントリップ調査から「運転免許証を持っていない人」「世帯にクルマがない人」の数を集計してみると約3割になります(図-3)。この3割という数字は決して小さなものではありません。この地域では、誰もが自動車を使って快適に生活をしている…ということでもなさそうです。

 クルマを気軽に利用できない人たちの外出は、クルマによる送迎が多くなっています。送迎だと、送迎してもらう人は遠慮や気兼ねがでて、通院など、どうしても必要な移動以外の外出は潜在化しがちです。また、送迎する人も日に何度も送迎をするために時間の負担なども多くなり、結構大変なことが多いのです

図-3 クルマを気軽に利用できない人の人口割合(加西市資料)

さて、加西市の人口推移は図-4の通りです。1985年が52千人でピークであり、それ以降の人口は漸減傾向にあることがわかります。

図-4 加西市の総人口の推移と将来推計(加西市資料)

コミュニティバスなどの利用実態は?

 図-4で加西市の人口が漸減傾向となっていることがわかりました。では、加西市のコミュニティバスの利用実態はどうなっているのか確認してみましょう。

 図-5が加西市のコミュニティバスの乗車人員の推移です。

図-5 加西市のコミュニティバスの乗車人員の推移(加西市資料)

 これより、2010年が最も利用者数が少ないこと、それ以降V字回復とは言えないにしてもU字回復程度には利用者数が増加していることがわかります。残念ながらコロナ禍が発生した2020年度以降は減少していますが、コロナ禍がなければ更に利用者が増えていたことも十分に考えられます。

 バスの利用者数が増加している背景には、図-5に示す様々な施策を導入した効果だと考えられます。地域の人々にとって利用しやすいサービスを適切に導入すると利用者数が増えるという手応えを感じ取れると思います。

コロナ禍でも鉄道の利用者数も増加

 加西市に存在する鉄道として北条鉄道があります。これは単線、延長13.6km、8駅から構成されるシンプルなもので、ダイヤも1時間に1本という運行でした。

図-6はその北条鉄道の乗車人員の推移を見たものです。

図-6 北条鉄道の乗車人員の推移(加西市資料)

 図-6で注目してほしいのは、2021年度の乗車人員が増加に転じていることです。2020年度以降は、まさにコロナ禍でどこの鉄道も大きく利用者数を減らしている状況でしたが、北条鉄道は2021年度に利用者数が増加しています。この内訳を見ると通学定期の利用が161千人/年と2015年の頃と同じ程度まで回復していることがわかります。

 北条鉄道は単線であったために列車を行き違いさせて、便数増をすることができませんでした。しかし、様々な試行錯誤の結果(プロジェクトX的な苦心がありましたが)、2020年9月から「無人駅における行き違い交差設備」が実運用されることになりました。これによって、朝のダイヤをこれまでの1時間に1便から2便、合計4便の増加が実現しました。

 2021年度の利用者の増加の背景には、こうしたサービス水準向上の努力があったわけです。人口減少であり、コロナ禍であっても、サービスを向上することで利用者の増加を実現したということです。

コロナ禍でもバスの利用者数も増加

 図-7は加西市のコミュニティバス「ねっぴー号」のバス停留所である「とこなべ工業団地」の乗降者数です。

ネッピー号の利用者数を見ている中で、個別のバス停のデータを観ていくと、とこなべ公共団地のバス停の利用者数に大きな変化があったことに気がつきました。

 少し調べるとH.30(2018)年度までは2,200人/年程度であったものが、翌R1(2019)年度には4,000人/年を超える乗降者数になっています。なんと1.6倍の増加です。

 実はこの増加は市の施策とは直接関連していないのです。では、どうして増加したのでしょうか?

 とこなべ工業団地の工場では操業が活発になり、従業員を増やしています。ここで外国人の方や近年増加している免許を持たない若者たちを雇用するためには、公共交通で通勤できることが必要となります。企業にとっても公共交通があることで人材の確保が可能になったわけです。人口の減少傾向やコロナ禍があっても、こうした背景があってバスの利用が増加していることがわかりました。

 今後は、こうしたことを踏まえて、沿線の企業などに公共交通の利用をアピールしていくことが市の活動としても重要であることに気がつきます。

図-7 コミュニティバス「ねっぴー号」のバス停留所「とこなべ工業団地」の乗降者数(単位:人)

(資料:加西市公共交通活性化協議会)

まとめ

 公共交通の利用者減少の背景として、しばしば2つの要因が挙げられます。1つが人口減少です。もう1つがモータリゼーションの進行。

 ここで、紹介をさせていただいた兵庫県加西市は、自動車利用の分担率が80%と、モータリゼーションが深く進行しているエリアです。同時に人口も漸減傾向が続いています。

 しかし、ここでみていただいたように鉄道もバスも利用者数を増やしています。地域の人たちが必要とするサービスを適切に提供することで、利用者数が増加していることを紹介させていただきました。

 こうした取組をヒントとして、皆様の地域でも、人口減少だから…、あるいはモータリゼーションの進行が進行しているので公共交通の利用者増加は難しい…、と思考を止めずに、公共交通のサービスの向上に取り組むことで、利用をしたいと考えている人たちに手が届くことに取り組んでいただければ幸いです。

 なお、ここで紹介した加西市は2016年度の地域公共交通優良団体国土交通大臣表彰を受けています。

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