どうしてバスの運転手が不足しているの?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

最近、路線バスの運転手不足が問題になっているのはなぜ?

運転手になる若い人が少ないのが一つの原因です。

 「バスの運転手不足」という言葉がマスコミでたびたび取り上げられるようになってきました。実際に、運転手不足を理由として、バス路線が減便されたり、廃止される例も増えてきています。一体なぜ、運転手が不足しているのでしょうか?

運転手の人数が減り、高齢化が進む

 路線バスを運転するためには大型二種免許が必要ですが、この取得者数が近年大きく減っています。警察庁が発表している運転免許統計によると、2021年の大型二種免許保有者数は824,732人であり、20年前の2001年の1,191,554人に比べて、7割以下にまで減少しています。ちなみに、同じ期間に大型一種免許保有者はほとんど減少していません(2001年:4,249,848人→2021年:4,123,723人)。

 さらに、大型二種免許保有者の高齢化も進んでいます。同じく運転免許統計によると、2021年の大型二種免許保有者のうち、65歳以上が占める割合は45.9%です。2001年にこの割合は37.0%であったため、20年間で約9ポイント上昇したことになります。

大型二種免許保有者数とその65歳以上の割合の推移(運転免許統計より作成)

 また、大型二種免許の交付件数を見ると、2001年には年間で17,192件であったものが、2021年には6,562件と3分の1程度にまで減っています。

大型二種免許の交付件数の推移(運転免許統計より作成)

 これらのデータからわかることは、路線バス運転手のなり手である大型二種免許の保有者数が大きく減っている上に高齢化が進んでいることと、新たに路線バス運転手のなり手となる大型二種免許取得者も減っているということです。

 定年退職していく人数を補充することができないことが、運転手不足として表面化しているのが現在の状況です。

 こうした状況に対して各地のバス会社では、運転手の定年延長による退職者の抑制や、大型二種免許の取得助成による新規人材確保に取り組んでいます。ただ、こうした取り組みは対処療法に過ぎず、運転手不足を根本的に解決することはできないでしょう。

運転手不足の根本的な理由

 路線バスの運転手不足の根本的な理由は、運転手という職業の持つ特徴にあると言えます。厚生労働省が公表している令和3年賃金構造基本統計調査によると、バス運転者の1ヶ月あたりの労働時間は186時間、給与は約28万5千円です。一方で、全産業の労働者の平均を見ると、労働時間は176時間、給与は約33万5千円です。このことから、他の労働者に比べて、バス運転者の労働時間は長く、給料は安いということがわかります。

 さらに、路線バスの運転手には、早朝・深夜や土休日の勤務もあります。人の命を預かる仕事ですから責任も大きく、翌日早朝から乗務する場合は、晩酌をセーブしなければならないなど、様々な制約もあります。

 それでも、給料が高ければなりたいと思う人も多く出てくるでしょうが、実態としては労働時間は長く、給料は安いため、職業としての魅力が乏しく、若い人たちに新たに運転手になろうと思いづらい状況にあると言えます。

 かつてバスや電車の運転手といえば、子供たちのなりたい職業の上位の常連でしたが、最近では「AIの発達で運転手は将来なくなる職業である」というイメージも運転手という職業の不人気に拍車をかけているように思えます。

どうすれば運転手不足を解消できるのか

 根本的には、運転手の労働環境を改善し、給料を上げることで魅力ある職業にするということに取り組まなければ問題は解決しないでしょう。

 しかし、多くのバス会社は赤字経営を続けており、コロナ禍が追い打ちをかけている状況にあるため、企業努力だけでこれを実現することは不可能であり、誰かが何らかの形で新たな負担をすることが必要になります。

 この新たな負担を「誰が」「どのような形で」行うのかということを議論することは、もはや運転手不足の問題だけにとどまらず、社会における地域公共交通の役割や、それをどのように維持すべきか、という議論にもつながるものです。地域の移動を支える地域公共交通も、運転手がなければ成り立ちません。各地でこうした議論が深まり、地域公共交通と運転手をはじめとしたその担い手のみなさんについて考える機会が増えることを願っています。

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